ヒートポンプとは、空気などにある熱を冷媒で集め、温度を上げて冷暖房や給湯に使う技術です。電気は熱を直接つくるためではなく、熱を運ぶ圧縮機を動かすために使います。そのため、使った電気より多くの熱を取り出せます。ヒートポンプ・蓄熱センターは、現在のヒートポンプは1の電気エネルギーで3〜7倍の熱エネルギーを生み出すと説明しています。
一方で、熱をくみ上げる元の空気が冷たいほど、暖める力(能力)と効率(COP)は下がります。業務用エアコンのカタログの暖房COPは、外気温7℃の条件で測った値です。札幌の1月の平均気温は−3.2℃なので、北海道では「カタログ値どおりの効率は出ない時間帯が長い」と考えて機種を選ぶ必要があります。
この記事では、ヒートポンプの仕組み(冷媒サイクル)、COP・APFの意味、空気熱が法令上「再生可能エネルギー源」とされている根拠、寒冷地で効率が下がる理由、北海道の事業所での使いどころ、灯油・ガスの燃焼式との比べ方を、一次資料で確認できた範囲で整理します。
この記事でわかること
・ヒートポンプの仕組み(圧縮・凝縮・膨張・蒸発の4工程)
・COP・APF・年間給湯効率の意味と、カタログ値の測定条件
・空気熱が「再生可能エネルギー源」とされる法令上の根拠と、その範囲
・外気温が下がると能力と効率が下がる理由(メーカー仕様書の数値で確認)
・灯油・ガスの燃焼式と比べるときの計算方法(仮定の数字での試算)
更新履歴
- 2026年10月27日:全面改訂。冷媒サイクルの説明、COP・APFの定義(省エネ法施行規則)、空気熱の法令上の位置づけ、低外気温で能力・効率が下がる理由(メーカー仕様書の数値)、燃焼式との比較方法を追加。根拠を確認できない効率・削減率、終了・変更の可能性がある補助金一覧を削除
- 2026年3月27日:リニューアル
- 2023年1月24日:初版公開
1. ヒートポンプとは?「熱をつくる」のではなく「熱を運ぶ」技術
ヒートポンプ・蓄熱センターは、ヒートポンプを「空気や水、地面の中にある『熱』を集めて、冷暖房や給湯に活用する技術」と説明しています。化石燃料を燃やさずに熱を集める点が、ボイラーやストーブとの大きな違いです。
電気ヒーターは、電気を熱に変えます。1kWhの電気から得られる熱は、最大でも1kWh分です。ヒートポンプは、電気で圧縮機を動かし、外の空気の熱を室内やお湯に運びます。運んだ熱の分だけ、使った電気より多くの熱を届けられます。
ヒートポンプは身近な機器に広く使われています。ヒートポンプ・蓄熱センターの製品一覧では、次のような用途が挙げられています。
| 用途 | 主な製品 |
|---|---|
| 空調(冷暖房) | ルームエアコン、パッケージエアコン、ビル用マルチエアコン、チラー、温水床暖房 |
| 給湯 | エコキュート(自然冷媒(CO2)ヒートポンプ式給湯機)、業務用エコキュート、業務用ヒートポンプ給湯機 |
| 冷却 | 冷蔵庫、冷蔵・冷凍倉庫、業務用冷蔵庫、ショーケース |
| 加熱・乾燥 | ヒートポンプ乾燥ユニット、蒸気・温水製造装置、熱風ヒートポンプ |
| その他 | ヒートポンプ融雪システム など |
表:ヒートポンプが使われている主な製品(ヒートポンプ・蓄熱センター「ヒートポンプのバリエーション」をもとに作成)
同センターは、ヒートポンプは−100℃から100℃程度の温度帯で利用でき、冷凍・空調・給湯に必要な温度帯をまかなえるとしています。
2. ヒートポンプの仕組み|冷媒サイクルの4工程
ヒートポンプの中では、冷媒と呼ばれる物質が配管の中をぐるぐる回っています。冷媒は、圧力を変えることで、低い温度で蒸発して熱を吸い、高い温度で凝縮して熱を出します。この性質を使って熱を運びます。空調機メーカーのトレインは、冷凍サイクルを次の4つの工程で説明しています。
圧力を下げた液体の冷媒が、周りの空気から熱を受け取って蒸発し、気体になります。冷房では室内の空気から、暖房では外の空気から熱を吸います。
気体になった冷媒を圧縮機(コンプレッサー)で圧縮し、高温・高圧のガスにします。電気を使うのは主にこの工程です。
高温・高圧のガスが周りの空気や水に熱を渡し、液体に戻ります。暖房ではこの熱で室内を暖め、給湯ではお湯を沸かします。
高圧の液体の冷媒の圧力を下げます。冷媒は再び熱を吸える状態に戻り、1の蒸発へ戻ります。
図:冷媒サイクルの4工程(トレイン・ジャパン「冷凍サイクルとは」をもとに作成)
エアコンは、この流れの向きを切り替えて冷房と暖房を使い分けます。ダイキンは、暖房運転は冷房時と反対の運転になり、室外機から冷たい風が出ると説明しています。暖房中の室外機は、外の空気から熱を奪っているためです。
冷媒の種類は機器によって違います。たとえば三菱電機の業務用パッケージエアコンの仕様書(2023年作成)ではR32が使われています。エコキュートは、CO2を冷媒に使う給湯機(自然冷媒CO2ヒートポンプ式給湯機)です。業務用エアコンの冷媒の点検義務は「業務用エアコンの3ヶ月点検義務」で解説しています。
ヒートポンプ・蓄熱センターなどのプレスリリース(2025年4月11日)によると、「エコキュート」は電力会社・給湯機メーカーが自然冷媒CO2ヒートポンプ式給湯機の愛称として使っている名称で、関西電力の登録商標です。
3. 効率の指標|COP・APF・年間給湯効率の意味
ヒートポンプの効率は、「得られた熱 ÷ 使った電気」で表します。省エネ法の施行規則(別表第三)は、業務用エアコンの効率を次のように定めています。
暖房エネルギー消費効率(暖房COP)= 暖房能力 ÷ 暖房消費電力
冷房も同じ考え方(冷房能力 ÷ 冷房消費電力)。冷暖房平均COPは、両者の和を2で割った値です。
| 指標 | 意味 | 主な使われ方 |
|---|---|---|
| COP(成績係数) | 決められた温度条件で運転したときの、消費電力1kWあたりの冷房・暖房能力(kW)。ある1点の性能 | カタログ・仕様書の冷房COP、暖房COP |
| APF(通年エネルギー消費効率) | 1年間の冷房負荷と暖房負荷の合計 ÷ 1年間の消費電力量の合計。決められた条件で1年使ったときの効率 | エアコンの省エネ基準(トップランナー基準)の指標 |
| 年間給湯効率・年間給湯保温効率 | 1年間に使う給湯(と浴槽保温)の熱量 ÷ 1年間に必要な消費電力 | ヒートポンプ給湯機の効率表示 |
表:ヒートポンプの効率指標(省エネ法施行規則 別表第三、J-Net21、ヒートポンプ・蓄熱センター「高効率なヒートポンプ技術」をもとに作成)
COPは測ったときの温度条件とセットで読む必要があります。三菱電機の業務用エアコンの資料では、JIS B 8616:2015などによる条件として、冷房は室外35℃、暖房は室外7℃(乾球)・6℃(湿球)、室内20℃と記載されています。日立の解説では、暖房の「最大低温」の評価点は室外2℃(乾球)・1℃(湿球)です。
業務用エアコンは2006年10月からCOPに加えてAPFが表示されています(J-Net21)。資源エネルギー庁のトップランナー制度でも、エアコンの目標基準値はAPFで定められています。COPとAPFの違いは「COPとAPFの違いとは?」、冷房COPと部分負荷の読み方は「冷房COPとは?業務用エアコンの中間COP・部分負荷」で詳しく解説しています。
ヒートポンプ・蓄熱センターは、1の電気で3〜7倍の熱、最新のヒートポンプエアコンでは約7の熱を得られると説明しています。ただし、これは機種と測定条件による値です。北海道の冬の暖房で、いつもこの倍率が出るわけではありません(理由は5章)。
4. 空気熱は再生可能エネルギー?制度上の位置づけ
空気の熱は、法令上「再生可能エネルギー源」に含まれています。根拠は、エネルギー供給構造高度化法(平成21年法律第72号)です。2026年10月27日時点のe-Govでの正式名称は「エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」です。
| 法律の定義(第2条第3項) | 「再生可能エネルギー源」とは、太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの |
| 政令で定めるもの(施行令第4条) | 太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存する熱(地熱・太陽熱を除く)、バイオマス |
| 法律の対象者 | 電気事業者、熱供給事業者、燃料製品供給事業者(第2条第1項。法律上の「エネルギー供給事業者」) |
表:空気熱の法令上の位置づけ(e-Gov法令検索:エネルギー供給構造高度化法・同施行令、2026年10月27日確認)
ヒートポンプ・蓄熱センターも、空気熱や地中熱などは2009年のエネルギー供給構造高度化法で再生可能エネルギーに位置づけられたと説明しています。2025年4月の業界3団体のプレスリリースでも、エコキュートは「再生可能エネルギーである大気中の熱を利用する」給湯機とされています。
再エネ源とされているのは、ヒートポンプが空気からくみ上げる熱です。圧縮機を動かす電気は、電力会社の電源構成に応じたものです。また、この法律の義務の対象はエネルギー供給事業者で、ヒートポンプを使う企業の報告方法を定めたものではありません。
環境省の紹介資料「再生可能エネルギー熱利用の概要・導入事例」(2022年3月)は、太陽熱・バイオマス熱・地中熱・地熱(温泉熱)・地下水熱・下水熱・海水熱・河川熱を熱源とするシステムを紹介の対象にしており、空気熱は紹介の対象になっていません(事例の中に空気熱利用のCO2冷媒ヒートポンプが補助熱源として出てきます)。補助金や報告制度で「再エネ熱」として扱えるかは、それぞれの公募要領や算定ルールで確認してください。
5. 外気温が下がると能力・効率が下がる理由
空気熱源のヒートポンプは、外気温が下がるほど暖房能力も効率も下がります。三菱電機の技術論文(三菱電機技報)の要旨でも、ヒートポンプ式エアコンには、外気温が低くなるほど暖房能力が低下し、効率も悪化するという原理的な欠点があると書かれています。
能力が下がる理由:冷媒の循環量が減る
三菱電機は寒冷地向けエアコンの開発記事で、外気温が−15℃まで下がると冷媒回路内の圧力が下がり、冷媒の密度が下がって循環量が減ると説明しています。熱を運ぶ冷媒が減れば、暖める能力も落ちます。寒冷地向け機種は、圧縮機や回路を工夫してこの低下を補っています。
効率が下がる理由:くみ上げる温度差が大きくなる
パナソニックは、エアコンの暖房は外気から取り込んだ熱を圧縮して温度を高めて室内に送る仕組みのため、外気の気温が低いほど効率が下がる欠点があったと説明しています(近年の機種は暖房能力が大きく強化されたともしています)。ヒートポンプ・蓄熱センターも、温泉排湯を例に、熱源の温度が高いほど効率がよくなると説明しています。つまり、熱源の空気が冷たく、くみ上げる温度差が大きいほど、同じ熱を運ぶのに多くの電気が要ります。下の仕様書の数値でも確かめられます。
実際の数値を、三菱電機の業務用パッケージエアコン(天吊形・140形)の仕様書で見てみます。
| 機種(仕様書の作成日) | 評価点(室外の条件) | 暖房能力 | 消費電力 | COP(能力÷電力) |
|---|---|---|---|---|
| PCZ-ZRMP140K3(標準の高効率機、2023年1月) | 定格暖房標準(7℃) | 14.0kW | 3.85kW | 3.64 |
| 最大暖房低温(2℃) | 14.0kW | 6.05kW | 約2.31 | |
| PCZ-HRMP140K3(暖房運転範囲が室外−25℃までの機種、2023年1月) | 定格暖房標準(7℃) | 14.0kW | 3.95kW | 3.54 |
| 最大暖房低温(2℃) | 16.2kW | 6.99kW | 約2.32 | |
| 最大暖房極低温 | 16.2kW | 8.82kW | 約1.84 |
表:外気条件ごとの暖房能力と消費電力(三菱電機 空冷ヒートポンプ式パッケージエアコン仕様書。JIS B 8616:2015準拠の値。COPは定格標準以外は能力÷消費電力で計算。「最大」は能力を最大にした運転の値。2023年1月作成の仕様書(室外ユニット PUZ-ZRMP140KA13・PUZ-HRMP140KA7)の値で、現行の機種では値が異なります)
標準機(ZRMP)は、7℃でも2℃でも同じ14.0kWの暖房能力ですが、2℃では消費電力が3.85kWから6.05kWに増えています。ただし「最大」の値は圧縮機を最大で回した運転なので、外気温だけの影響ではありません。それでも、寒いほど同じ熱を出すのに多くの電気が要ることは読み取れます。
運転できる外気温の下限も機種で違います。仕様書の暖房の使用温度範囲(室外・乾球)は、標準機が−20℃まで、HRMPが−25℃までです。HRMPの仕様書には、室外湿球温度−15℃時の能力16.2kW、−20℃時の能力14.0kWも記載されています。
給湯機も同じです。ダイキンの業務用エコキュートは、外気温−25℃の寒冷地に対応するとしつつ、製品ページには寒冷地での1日の供給湯量が通常より少ない値で併記されています(1台構成で給湯60℃、お好み湯量設定10の場合、1,200L/日のところ寒冷地では1,050L/日)。−20〜−25℃ではタンクの全量を沸き上げられない場合があるとも注記しています。
さらに冬は、室外機に付いた霜を溶かす霜取り運転の間、暖房が止まる機種があります。詳しくは「北海道のエアコン暖房と霜取り運転」をご覧ください。
気象庁の平年値(1991〜2020年)では、1月の平均気温は札幌−3.2℃、旭川−7.0℃、帯広−6.9℃です。1月の日最低気温の平年値は、札幌−6.4℃、旭川−11.7℃、帯広−13.0℃です。
カタログの暖房COP(外気7℃)や「最大低温」(外気2℃)の条件より低い時間が、冬の大半を占めます。北海道では、定格の暖房COPではなく、低温・極低温での能力と消費電力を見て機種と台数を決めることが大切です。
6. 北海道での使いどころ|業務用エアコン・給湯・寒冷地向け機種
業務用エアコン(寒冷地向け機種)
事務所・店舗・施設の暖房をエアコンで行う場合は、寒冷地向け機種が候補になります。メーカーの公表値の例は次のとおりです。
| シリーズ(メーカー) | 暖房運転できる外気温 | 低外気温での能力(メーカー表記) |
|---|---|---|
| ズバ暖スリム(三菱電機) | −25℃まで | 外気温−15℃でも定格能力同等(ピーク時)をキープ |
| スゴ暖ZEAS(ダイキン) | −25℃まで | −15℃でも定格暖房 |
表:寒冷地向け業務用エアコンの例(三菱電機・ダイキンの製品ページ。2026年10月27日確認。条件は各社の注記を確認してください)
家庭用エアコンについては、資源エネルギー庁のトップランナー基準が「寒冷地仕様」を定義しています。積雪・低温による故障を防ぐ設計であること、JIS B 8615-1(2013)の暖房極低温(−7℃)で定格暖房標準能力以上を出せること、寒冷地最低外気温度(−15℃以下)で運転性能の要求事項を満たすこと、の3つをすべて満たすものです。違いは「寒冷地エアコンとは?」で解説しています。
給湯ヒートポンプ
給湯では、家庭用・業務用のエコキュートや業務用ヒートポンプ給湯機があります。ヒートポンプ・蓄熱センターは、病院・ホテルの給湯や工場・農業分野でもヒートポンプが使われていると説明しています。寒冷地では前章のとおり供給湯量が減る機種があるため、ピーク時の湯量を冬の条件で確認します。業務用エコキュートの考え方は「北海道で業務用エコキュートは使える?」、給湯器の比較は「寒冷地で失敗しない給湯器の選び方」をご覧ください。
空気以外を熱源にする方法
ヒートポンプは、地中や水(河川・地下水・下水など)、工場などの排熱も熱源にできます。ヒートポンプ・蓄熱センターは、地中の温度はその土地の年間平均気温と同じくらいといわれ、寒冷地では地中と外気の温度差が大きいので特に効果的だと説明しています。
札幌の年平均気温の平年値は9.2℃、1月の平均気温は−3.2℃です(気象庁)。地中の温度が年平均気温に近いとすると(推測)、真冬は空気より地中のほうが熱源として有利です。環境省の資料(2022年3月)でも、地中熱利用は国内で特に寒冷地での導入件数が多いとされています。一方で同資料は、再エネ熱利用の課題として設備導入コストが高いことや投資回収年数が長いことを挙げています。
7. 灯油・ガスの燃焼式と比べるときの考え方
燃焼式とヒートポンプは、「同じ量の熱を届けるのに、いくらかかるか」で比べます。燃料の価格だけ、電気の単価だけを比べても判断できません。
燃焼式の熱の単価(円/kWh)= 燃料単価 ÷(発熱量 × 機器の効率)
ヒートポンプの熱の単価(円/kWh)= 電気の単価 ÷ COP
発熱量はkWhに直して計算します(1kWh=3.6MJ)。
燃料の発熱量は、省エネ法の施行規則(別表第一)で、灯油36.5GJ/kL(=36.5MJ/L)、A重油38.9GJ/kL、液化石油ガス(LPG)50.1GJ/tと定められています。都市ガスは、契約しているガス会社の熱量で計算します。
仮定の数字での試算
次の表は、すべて仮定の数字で計算した例です。実際の判断には、自社の灯油の購入単価、電気の契約と単価、機器の効率を入れ直してください。
| 方式 | 前提(仮定) | 熱1kWhあたりの費用 |
|---|---|---|
| 灯油ボイラー・ストーブ | 灯油120円/L、発熱量36.5MJ/L(約10.14kWh/L)、機器効率85% | 約13.9円 |
| ヒートポンプ(COP3.5) | 電気30円/kWh | 約8.6円 |
| ヒートポンプ(COP2.5) | 電気30円/kWh | 12.0円 |
| ヒートポンプ(COP1.8) | 電気30円/kWh | 約16.7円 |
表:熱1kWhあたりの費用の試算(灯油の発熱量は省エネ法施行規則 別表第一。それ以外はすべて仮定の数字。灯油の発熱量は総発熱量(高位発熱量)基準なので、機器効率もこの基準に合わせて入れてください)
この仮定では、灯油と同じ費用になるCOPは「30円 ÷ 13.9円 ≒ 2.2」です。冬の平均的な運転でCOPが2.2を上回るかどうかが分かれ目になります。5章のとおり、外気温が低い時間帯はCOPが2前後まで下がる機種もあるため、定格COPだけで判断すると見込みが外れます。
業務用の電気は、電力量の単価だけでなく基本料金も含めて比べます。実量制の契約では、契約電力は当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうち最も大きい値で決まり、基本料金はこの契約電力をもとに計算されます(ほくでんネットワーク)。暖房をエアコンに替えて冬の最大需要電力が年間の最大を超えると、その後1年間の基本料金が上がります。冬の最大需要電力が年間の最大になるかどうかは、夏の冷房のピークなどにより事業所ごとに異なる可能性があります。契約電力と基本料金の関係は「業務用エアコンの動力契約とは?」をご覧ください。燃料ごとの熱量単価の比べ方は「灯油・重油・LPG・電気の熱量単価比較」で解説しています。
一次エネルギーで比べる場合
省エネ法では、電力会社から買った電気は1,000kWhを8.64GJとして換算します(施行規則第4条第3項)。電気1kWh(3.6MJ)をつくるのに約2.4倍の一次エネルギーを使っている、という扱いです。この換算で燃焼式と同じ一次エネルギーになるCOPは「2.4 × 燃焼機器の効率」です。効率85%の燃焼機器と比べるなら、COPが約2.0を上回れば、ヒートポンプのほうが一次エネルギーは少ないという計算になります。
公的機関の試算例(家庭用)
ヒートポンプ・蓄熱センターの「寒冷地向けエアコン普及パンフレット」(2026年3月公開)は、定格暖房能力5.0kWの寒冷地エアコンと、同じ能力帯の石油ファンヒーターの暖房シーズンの光熱費を試算しています。結果は、石油ファンヒーター約95,000円、エアコン約70,000円(約26%減)です。
前提は、平均暖房出力2.5kW、暖房期間10〜4月の210日、1日12.8時間運転(実測値)、エアコンのCOP4.4(実測値)、北海道電力「従量電灯B」第2段階単価、2026年2月2日の北海道の灯油店頭価格などです。住宅向けの試算で、建物の断熱性能や外気温で結果は変わると注記されています。事業所でそのまま使える数字ではありませんが、比べ方の参考になります。
同パンフレットは、CO2排出量の試算に北海道電力の2024年度の排出係数を使っています。電気のCO2は、契約する電力会社とその年度の値で変わります。社内で比べる場合は、自社が契約している電力会社の排出係数を使ってください。
8. よくある失敗・注意点
定格の暖房COPは外気7℃の値です。北海道の冬の大半はこれより寒く、COPは下がります。見積もりには、低温・極低温での能力と消費電力、霜取り運転の影響を入れてください。
寒いほど暖房能力も下がります。必要な暖房能力は、地域の低い外気温のときの能力で確かめます。機種によって暖房できる外気温の下限も違います(例:三菱電機の仕様書で標準機−20℃、寒冷地向け−25℃)。
ダイキンは、室外機の吹出口や吸込口がふさがれていると暖房効果が弱くなるとして、室外機の周りの物や雪を取り除くよう案内しています。雪に埋もれない架台の高さや防雪フードは、設置前に決めておきます。「防雪フードとは?」も参考にしてください。
環境省の資料によると、フロン排出抑制法では業務用エアコンなどの管理者に、3か月に1回以上の簡易点検が求められています。圧縮機に用いられる電動機の定格出力が7.5kW以上のエアコン(冷暖房能力のkWではありません)は、定期点検(50kW以上は1年に1回以上、7.5kW以上50kW未満は3年に1回以上)も必要です。
9. よくある質問(FAQ)
A. ヒートポンプ・蓄熱センターは、1の電気エネルギーで3〜7倍の熱エネルギーを生み出すと説明しています。ただし、これは機種と測定条件による値です。暖房では外気温が下がるほど倍率(COP)は下がり、業務用エアコンの仕様書でも外気2℃の最大能力運転ではCOPが2.3程度になる例があります。
A. 機種どうしの年間の省エネ性能を比べるならAPF、特定の条件(たとえば外気2℃)での性能を見るならその条件のCOPです。北海道の暖房では、APFの計算条件と実際の気候が違うため、低温での能力と消費電力も合わせて確認してください。
A. エネルギー供給構造高度化法の施行令第4条で、「大気中の熱その他の自然界に存する熱」は再生可能エネルギー源とされています。ただし、再エネ源とされるのは空気からくみ上げる熱で、圧縮機を動かす電気は別です。補助金や報告制度での扱いは、制度ごとに確認が必要です。
A. 寒冷地向けの業務用エアコンには、三菱電機やダイキンのように外気温−25℃まで暖房運転できるとする機種があります。ただし能力と効率は外気温で下がるため、地域の低い外気温での能力と、霜取り運転、室外機の雪対策を確認したうえで機種と台数を決めます。
A. 灯油の単価、電気の単価と基本料金、冬の平均的なCOPで決まります。この記事の仮定(灯油120円/L、効率85%、電気30円/kWh)では、COPが約2.2を上回れば灯油より安いという計算です。自社の数字で計算し直してください。
10. まとめ
- ヒートポンプは、冷媒の蒸発・圧縮・凝縮・膨張をくり返して、空気などの熱を運ぶ技術です。
- 効率は「得られた熱 ÷ 使った電気」で表し、COPは温度条件つきの1点の値、APFは年間の値です。
- 空気の熱は、エネルギー供給構造高度化法の施行令で再生可能エネルギー源とされています。ただし電気分は別で、制度ごとの扱いは確認が必要です。
- 外気温が下がると、冷媒の循環量が減って能力が下がり、効率も下がります。北海道では定格COP(外気7℃)より低温での性能を見て選びます。
- 燃焼式との比較は「熱1kWhあたりの費用」で行い、仮定の数字ではなく自社の単価と冬のCOPで計算します。
記事情報
公開日:2023年1月24日
最終更新日:2026年10月27日(全面改訂)
参照資料:
・e-Gov法令検索「エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」(e-Gov)
・e-Gov法令検索「同法施行令」(e-Gov)
・e-Gov法令検索「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行規則」(e-Gov)
・一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター「ヒートポンプについて」(ヒートポンプ・蓄熱センター)
・同「ヒートポンプと再生可能エネルギー」(ヒートポンプ・蓄熱センター)
・同「高効率なヒートポンプ技術」(ヒートポンプ・蓄熱センター)
・同「ヒートポンプの利用範囲」(ヒートポンプ・蓄熱センター)
・同「ヒートポンプのバリエーション」(ヒートポンプ・蓄熱センター)
・同「寒冷地向けエアコン普及パンフレット」(ヒートポンプ・蓄熱センター)
・日本冷凍空調工業会・ヒートポンプ・蓄熱センター・電気事業連合会「家庭用自然冷媒ヒートポンプ給湯機『エコキュート』累計出荷台数1,000万台突破について」2025年4月11日(ヒートポンプ・蓄熱センター)
・環境省「再生可能エネルギー熱利用の概要・導入事例」2022年3月(環境省)
・ほくでんネットワーク「デマンド監視制御装置による省エネ・節電のご紹介」(ほくでんネットワーク)
・環境省「フロン排出抑制法の概要~第一種特定製品の管理者~」2023年11月(環境省)
・資源エネルギー庁「エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数(2023年度改訂)の解説」(資源エネルギー庁)
・資源エネルギー庁「トップランナー制度 エアコンディショナー」(資源エネルギー庁)
・J-Net21(中小企業基盤整備機構)「空調機の性能表示のCOPとAPFの違いは?」(J-Net21)
・トレイン・ジャパン「冷凍サイクルとは」(トレイン)
・三菱電機「設備用パッケージエアコン 一般空調設備用 標準タイプ」(三菱電機)
・三菱電機 仕様書「PCZ-ZRMP140K3」(三菱電機)「PCZ-HRMP140K3」(三菱電機)
・三菱電機「ズバ暖霧ヶ峰 開発物語 STORY2」(三菱電機)
・三菱電機技報「寒冷地向けエアコンの暖房能力向上技術」(三菱電機)
・三菱電機「ズバ暖スリム」(三菱電機)
・ダイキン工業「スゴ暖ZEAS」(ダイキン)
・ダイキン工業「業務用エコキュート」(ダイキン)(寒冷地対応)
・ダイキン「店舗・オフィスエアコン よくあるご質問(暖房時に温風が出ない)」(ダイキン)
・日立ジョンソンコントロールズ空調「APFとは」(日立)
・パナソニック「大雪が降ってもエアコン暖房であたたかく過ごすには?」2024年3月8日(パナソニック)
・気象庁「平年値(年・月ごとの値)」札幌(気象庁)旭川(気象庁)帯広(気象庁)
※2026年10月27日時点の情報です。メーカーの仕様・数値は機種や年式で異なります。試算の単価・効率はすべて仮定の数字で、実際の費用を示すものではありません。
