「電気の使用量を、なぜ原油やガスと同じ土俵で比べられるのか」「省エネ法の報告書に出てくる電力の換算係数は、どうやって決まっているのか」——こうした疑問をお持ちの北海道の事業者さまは少なくありません。電力の一次エネルギー換算係数とは、1kWhの電気を発電段階のエネルギー量(一次エネルギー)に置き換えるための数値です。
この係数は、北海道で工場やビル、店舗を運営する企業が省エネ法の定期報告を行う際の根幹をなす数値です。とりわけ2023年4月の法改正で係数が大きく変わったため、過去の知識のままだと報告値を誤るおそれがあります。
本記事では、電力の一次エネルギー換算係数の意味と算出根拠を、計算式までさかのぼってわかりやすく解説します。あわせて2023年改正で何が変わったか、北海道の事業者が押さえるべき実務上のポイントまで整理します。
この記事でわかること
✅ 電力の一次エネルギー換算係数とは何か(定義と目的)
✅ 換算係数がどんな計算で導かれるのか(発電・送電効率からの算出根拠)
✅ 2023年改正で「9.76→8.64MJ/kWh」に変わった理由と影響
✅ 電気・ガス・灯油の換算係数を横並びで比較した一覧
✅ 北海道の事業者が省エネ報告で注意すべきポイント
1. 電力の一次エネルギー換算係数とは?
一言でいうと「電気を発電段階のエネルギー量に戻す物差し」
電力の一次エネルギー換算係数とは、需要家が使った1kWhの電気を、発電所で投入された一次エネルギー(化石燃料などの本来のエネルギー量)に換算するための係数です。単位はMJ/kWh(メガジュール毎キロワット時)で表されます。
そもそも一次エネルギーとは、石油・石炭・天然ガス・水力・原子力など、自然界から得られる加工前のエネルギーを指します。これに対し、電気やガソリンのように、一次エネルギーを変換・加工してつくられたものを二次エネルギーと呼びます。電気は二次エネルギーの代表格です。
工場や事業所では、電気・ガス・灯油・重油など性質の異なるエネルギーを同時に使っています。これらを足し算して「全体でどれだけエネルギーを使ったか」を比べるには、共通の物差しが必要です。その共通の物差しが「一次エネルギー(原油換算)」であり、電気をこの物差しに乗せるための数値が一次エネルギー換算係数です。
制度の目的:省エネ法の報告に使われる
この係数は、省エネ法(正式名称は2023年4月から「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」)の報告で使われます。原油換算で年間1,500kL以上のエネルギーを使う事業者は、特定事業者として国への定期報告が義務づけられています。
| 係数の名称 | 電力の一次エネルギー換算係数 |
| 単位 | MJ/kWh(または GJ/千kWh) |
| 用途 | 省エネ法の定期報告等におけるエネルギー使用量の原油換算 |
| 現行の値 | 8.64 MJ/kWh(一般的な系統電気の買電。全電源平均係数)※2023年度実績分から。非化石電気等は3.60MJ/kWh |
| 根拠法令 | 省エネ法施行規則 別表 |
2. 換算係数はどうやって算出される?(算出根拠)
結論:発電効率と送配電ロスから逆算される
電力の一次エネルギー換算係数は、発電所で投入したエネルギーのうち、どれだけが需要家の元に電気として届くか(受電端の総合効率)から算出されます。発電と送配電にはロスがあり、投入した一次エネルギーのすべてが電気として届くわけではないためです。
電気は、発電所でつくられ、送電線・変電所・変圧器を経由して需要家に届きます。この過程で、発電ロス・所内消費・送配電損失が発生します。下図はその供給体系を模式化したものです。
図:発電所から需要家に届くまでの供給体系(模式図)
計算式の考え方
1kWhの電気がもつ物理的なエネルギー量は3.6MJ(3,600kJ)です。一方、この1kWhを発電所が送り出すために投入した一次エネルギーは、受電端での総合効率で割り戻すことで求められます。
1kWhの一次エネルギー量 = 3,600kJ ÷ 受電端総合効率
考え方の例:受電端総合効率を約41.7%と仮定した場合
3,600kJ ÷ 0.417 ≒ 8,640kJ/kWh = 8.64MJ/kWh
※ 上記の効率値は8.64から逆算した説明用の試算であり、公式に公表された効率内訳ではありません。
受電端の総合効率が高くなる(=ロスが減る)ほど、同じ1kWhをつくるために必要な一次エネルギーは少なくなります。そのため、発電効率の向上は換算係数の引き下げにつながります。後述の改正で係数が小さくなったのも、原子力・再エネを含めた全電源で評価した結果、見かけ上の効率が高まったためです。
3. 2023年改正で何が変わった?(9.76→8.64MJ/kWh)
「火力平均」から「全電源平均」へ
2023年4月の省エネ法改正で、電力の一次エネルギー換算係数は大きく見直されました。従来は火力発電のみの効率から算出した「火力平均係数」9.76MJ/kWhが使われていましたが、改正後は原子力・再生可能エネルギーも含めた「全電源平均係数」8.64MJ/kWhに変更されました。
この新しい係数は、2024年度提出分(2023年度実績分)から適用されています。係数が小さくなったことで、電気を使う設備の一次エネルギー評価は従来より有利になりました。
9.76 MJ/kWh
火力平均係数
(火力発電の効率のみで算出)
8.64 MJ/kWh
全電源平均係数
(原子力・再エネも含めて算出)
改正の背景:化石燃料中心からの転換
従来の省エネ法は「化石燃料」の使用合理化を主な対象としていました。電力の換算係数が火力発電の効率だけから算出されていたのも、このためです。改正後は非化石エネルギーへの転換も法の目的に加わり、評価の前提が全電源へと広がりました。
係数の切り替えは、省エネ法に基づく工場・事業場の定期報告に関する話です。建築物省エネ法の省エネ計算では、電気の一次エネルギー換算係数として、引き続き9.76MJ/kWh(9,760kJ/kWh)が用いられます。制度によって使う係数が異なるため、どの制度の計算なのかを確認することが重要です。
電気を使う設備が「相対的に有利」になった
係数が約11.5%下がったことで、省エネ法の報告上、電気を使う設備のエネルギー評価は軽くなりました。これにより、ヒートポンプ式給湯器や産業用電気ヒーター、EV(電気自動車)などの導入が、ガス・灯油を直接燃やす設備との比較で評価されやすくなっています。
4. 電気・ガス・灯油の換算係数を比較すると?
主なエネルギー種別の換算係数一覧
省エネ法では、各エネルギーの発熱量に原油換算係数0.0258kL/GJを乗じて、原油換算のエネルギー使用量を求めます。主な種別の発熱量(換算係数)は下表のとおりです。
| エネルギー種別 | 発熱量・換算係数 | 単位 |
|---|---|---|
| 電気(一般的な買電) | 8.64 | MJ/kWh |
| 非燃料由来の非化石電気など | 3.60 | MJ/kWh |
| 原油 | 38.2 | GJ/kL |
| A重油 | 39.1 | GJ/kL |
| 灯油 | 36.7 | GJ/kL |
| 都市ガス(13Aの例) | 45 | MJ/m³ |
| 原油換算係数(共通) | 0.0258 | kL/GJ |
※ 電気は契約形態や電気の由来によって用いる係数が異なります(下記参照)。都市ガスの標準熱量は供給事業者・地域により異なる場合があります。LPGなど他の燃料の発熱量は省エネ法施行規則の別表をご確認ください。
省エネ法の定期報告では、電気事業者から購入する一般的な系統電気については、原則として8.64MJ/kWh(8.64GJ/千kWh)で熱量換算します。一方で、太陽光・風力・水力などの非燃料由来の非化石電気、オンサイトPPA、一定のオフサイトPPA、自己託送などでは、3.60MJ/kWh(3.60GJ/千kWh)を用いる場合があります。契約形態や電気の由来によって係数が異なるため、定期報告では最新の記入要領を確認することが重要です。
① 各エネルギーの使用量 × 発熱量(換算係数)= 熱量〔GJ〕
② 全エネルギーの熱量を合計〔GJ〕
③ 合計熱量 × 0.0258〔kL/GJ〕= 原油換算エネルギー使用量〔kL〕
この原油換算値が年間1,500kL以上だと、省エネ法の特定事業者に該当します。
計算の流れ(プロセス図)
図:エネルギー使用量を原油換算する流れ
北海道の事業所は、冬季の暖房・給湯で灯油やガスを大量に使う傾向があります。そのため、本州の同規模事業所より原油換算値が大きくなりやすく、知らないうちに特定事業者の基準(年間1,500kL)に近づいているケースもあります。自社のエネルギー使用量を一度棚卸ししておくと安心です。
5. 一次エネルギー換算を理解する3つのステップ
はじめて省エネ報告に取り組む担当者の方は、次の3ステップで考えると整理しやすくなります。
電気・都市ガス・LPG・灯油・重油・ガソリンなど、事業所で使う全エネルギーの年間使用量を集めます。
各使用量に種別ごとの換算係数を掛けて、共通単位のGJに揃えます。電気は8.64MJ/kWhを使います。
すべてのGJを合計し、0.0258を掛けて原油換算値(kL)を求めます。これが報告のベースになります。
6. よくある失敗と回避策
古い係数のまま計算してしまう
もっとも多い失敗が、改正前の9.76MJ/kWh(または昼間9.97・夜間9.28)のまま計算してしまうケースです。2023年度実績分からは全電源平均係数8.64MJ/kWhが正となります。社内の計算シートやマニュアルが古いままになっていないか確認しましょう。
制度ごとに係数を取り違える
前述のとおり、省エネ法(工場・事業場の定期報告)と建築物省エネ法では用いる係数が異なります。どの制度の報告なのかを最初に確認し、対応する係数を使うことが重要です。
省エネ法の定期報告でも、ベンチマーク制度など一部の指標では、当面、改正前の省エネ法に基づく算定方法や旧係数(電気の一次エネルギー換算係数9.76GJ/千kWh)を使う場面があります。報告書のどの表・どの制度に使う係数なのかを必ず確認してください。法改正前後の評価の継続性を担保するため、新旧両方の数値の記入を求められる経過措置もあります。
換算係数や発熱量は、資源エネルギー庁が公開する「エネルギー使用量(原油換算値)簡易計算表」や省エネ法施行規則の別表で確認できます。年度によって改訂される可能性があるため、最新の公式資料を参照する習慣をつけると安心です。
7. 北海道の事業者にとってのポイント
■ 暖房・給湯の電化が評価されやすくなった
換算係数が8.64MJ/kWhに下がったことで、灯油ボイラーからヒートポンプ式設備への転換が、省エネ法の一次エネルギー評価で有利になりました。寒冷地で燃料費負担の大きい北海道では、検討価値が高まっています。
■ 燃料の使い分けで原油換算値は変わる
電気・灯油・ガスを横並びの物差し(原油換算)で見ることで、どのエネルギーをどれだけ使っているかが客観的にわかります。冬季に集中する暖房需要を、どの熱源でまかなうかの判断材料になります。
■ 特定事業者の該当判定を年1回は確認する
寒冷地は燃料使用量が多く、原油換算値が膨らみやすい傾向があります。年間1,500kLの基準に近い規模の事業所は、毎年エネルギー使用量を集計して該当の有無を確認しておくと、報告漏れのリスクを避けられます。
■ 計算の前提を最新化しておく
過去に作った原油換算の社内シートは、係数が古いまま残っていることがあります。担当者の交代時などに、係数が現行値に更新されているか点検しておくことをおすすめします。
8. よくある質問(FAQ)
A. 省エネ法の定期報告では、一般的な系統電気の買電について、2023年度実績分から全電源平均係数の8.64MJ/kWhが使われます。改正前は火力平均係数の9.76MJ/kWhでした。ただし非燃料由来の非化石電気やPPA・自己託送などでは3.60MJ/kWhを用いる場合があります。
A. 従来は火力発電の効率だけで算出していましたが、改正後は原子力・再エネを含む全電源の平均で算出するようになったためです。見かけ上の発電効率が高まり、係数が小さくなりました。
A. 電気・ガス・灯油など性質の異なるエネルギーを足し合わせて比べるには、共通の物差しが必要だからです。発電段階の一次エネルギー量に揃えることで、合計使用量を客観的に評価できます。
A. 改正前は昼間9.97・夜間9.28と時間帯で分かれていました(運用する発電所の効率差が理由)。現行の全電源平均係数では、原則として時間帯別ではなく一つの係数で扱う形に整理されています。詳細は最新の公式資料をご確認ください。
A. いいえ。建築物省エネ法の省エネ計算では、引き続き9.76MJ/kWh(9,760kJ/kWh)が用いられます。どの制度の計算かによって使う係数が異なる点に注意してください。
9. まとめ
電力の一次エネルギー換算係数について、要点を整理します。
✅ 電力の一次エネルギー換算係数は、1kWhの電気を発電段階の一次エネルギー量に戻す物差し
✅ 算出根拠は「3,600kJ ÷ 受電端の総合効率」。効率が高いほど係数は小さくなる
✅ 一般的な系統電気の買電は、2023年改正で火力平均9.76MJ/kWh → 全電源平均8.64MJ/kWh に変更(2023年度実績分から)
✅ 非燃料由来の非化石電気・PPA・自己託送などは3.60MJ/kWhを用いる場合がある
✅ 係数低下で、ヒートポンプなど電気利用設備の省エネ評価が相対的に有利に
✅ 建築物省エネ法は9.76MJ/kWh、定期報告のベンチマーク等でも旧係数の場面がある。制度・表ごとに係数を取り違えないこと
省エネ報告の根幹をなす換算係数は、制度改正で変わることがあります。古い前提のまま計算しないよう、最新の公式資料を確認しながら進めることが、正確な報告と適切な省エネ判断の第一歩になります。
記事情報
公開日:2026年6月3日
参照資料:経済産業省 資源エネルギー庁「省エネ法(工場・事業場)」関連資料(定期報告書等の記入要領、電気事業者からの買電の非化石割合計算ツール操作マニュアル)、省エネ法施行規則 別表、電気事業連合会公表資料
※本記事は上記資料に基づいて作成しています。換算係数・発熱量は年度により改訂される場合があります。最新情報は資源エネルギー庁の公式サイトをご確認ください。
