「今年は社内の暖房設定温度を1℃下げて徹底したはずなのに、届いた請求書を見たら去年より高い……」
札幌市内や北海道内のオフィス・施設管理者様から、毎年2月〜3月になるとこのようなご相談をよくいただきます。経費削減のために社員一丸となって省エネに取り組んだのに、結果が数字に見えないと、担当者様としては立つ瀬がありませんよね。また、現場のモチベーションも下がってしまいます。
しかし、「請求額が増えた = 省エネ失敗」とは限りません。
北海道の冬は、年によって厳しさが全く異なります。昨年に比べて気温が低ければ、どれだけ努力しても燃料や電気の使用量は増えるのが自然の摂理です。また、燃料調整費の高騰など、単価の影響も受けます。
今の努力が「正解」だったのか、それとも「改善の余地あり」なのか。それを判断するためには、単なる「金額」や「総使用量」の比較ではなく、気象データ(気温)という「ものさし」を使った補正評価が必要です。
この記事では、エネルギーアドバイザーの視点から、気温データを活用した「正しい省エネ効果の検証方法」をわかりやすく解説します。Excelでできる簡単な計算方法もお伝えしますので、ぜひ次の社内会議の資料作りに役立ててください。
「金額」だけで比較してはいけない3つの理由
まず、なぜ請求書の金額だけで「今年の冬の成果」を評価してはいけないのか、その理由を整理しましょう。特に北海道の企業様は、以下の3つの要素が複雑に絡み合っています。
① 外気温の変動(気象条件)
北海道の冬は、年によって平均気温が大きく異なります。例えば、札幌の1月の平均気温が昨年より2℃低かった場合、同じ室温(20℃など)を維持するためには、ボイラーやエアコンにかかる負荷は何割も増加します。これは「建物の性能」や「努力」とは無関係の外部要因です。
② エネルギー単価の変動
電気代、ガス代、灯油代は、世界情勢や為替の影響で毎月変動します。
「使用量(kWhや㎥)」は昨年より減らせたのに、「単価(円)」が上がったために、「支払総額(円)」が増えているケースは非常に多いです。これを省エネ失敗と捉えるのは間違いです。
③ 稼働条件の変化
「今年は残業が増えた」「新しい設備を導入した」「工場の稼働率が上がった」など、ビジネスの状況も変化します。
つまり、正しい評価をするためには、これらのノイズを取り除き、「もし今年の冬が去年と同じ気温だったら、どれくらい使っていたか」を導き出す必要があります。
評価の鍵は「エネルギー消費原単位」と「デグリーデー」
少し専門的な言葉になりますが、ここで2つの重要な概念を覚えてください。これを知っているだけで、エネルギー管理のレベルが格段に上がります。
エネルギー消費原単位(げんたんい)
一言で言うと、「生産量や売上、延床面積あたりのエネルギー使用量」のことです。
工場の「生産数1個あたりの電気代」や、ホテルの「宿泊客1人あたりのガス代」などを指します。これにより、ビジネスの忙しさによる増減を補正できます。
デグリーデー(度日・D-D)
一言で言うと、「その期間、どれくらい寒かったかを数値化したもの」です。
暖房が必要な基準温度(例:14℃や18℃など)と、その日の平均気温との差を、期間分積み上げた数値です。
- デグリーデーが大きい = とても寒かった(暖房負荷が高い)
- デグリーデーが小さい = 比較的暖かかった(暖房負荷が低い)
北海道の省エネ分析において、この「デグリーデー」を使わない手はありません。
自社でできる!「気温データ×使用量」分析の3ステップ
では、実際にどのように分析すればよいのか、totokaが推奨する簡易的なステップをご紹介します。Excelがあれば誰でも作成可能です。
ステップ1:過去2〜3年分のデータを用意する
まず、以下のデータを手元に用意してください。
- エネルギー使用量(電気・ガス・灯油などの検針票から拾います)
- 検針期間(いつからいつまでの使用量かを確認します)
ステップ2:気象庁のサイトから「気温データ」を取得する
気象庁のWebサイトには、過去の気象データが無料で公開されています。
- 気象庁ホームページの「過去の気象データ検索」にアクセス。
- 自社の所在地に近い観測所(例:札幌、旭川、帯広など)を選択。
- 対象となる月の日平均気温データをダウンロードします。
ステップ3:簡易的な「原単位」を計算する
直感的に、「散布図(さんぷず)」を作る方法をおすすめします。
- Excelの縦軸(Y軸)に「エネルギー使用量」をとります。
- 横軸(X軸)に「月平均気温」または「デグリーデー」をとります。
- 過去のデータをプロット(点を打つ)していきます。
- その点の中に、「今年の冬のデータ」を落とし込みます。
このグラフを作ると、面白いことがわかります。
通常、気温が下がれば使用量は右肩上がりに増えていきます(近似曲線が描けます)。
- 今年のデータが、過去の傾向(線)よりも「下」にある場合→ 気温の影響を除いても、省エネ効果が出ている(成功!)
- 今年のデータが、過去の傾向(線)よりも「上」にある場合→ 気温以上にエネルギーを使っている(要注意! リバウンドや設備の不調の可能性)
北海道ならではの「見落としがちなポイント」
分析をする際、北海道の企業様特有の事情がデータに影響を与えることがあります。以下の要素も考慮に入れてください。
1. 融雪・ロードヒーティングの影響
降雪量が多い年は、気温とは無関係にロードヒーティングの稼働率が上がります。
「気温は平年並みだが、雪が多かった」という月は、ボイラーの燃料使用量が跳ね上がります。これを暖房の無駄遣いと勘違いしないよう、「降雪量データ」もあわせてチェックする必要があります。
2. 換気による熱ロス
コロナ禍以降、常時換気が定着しましたが、北海道の冬における換気の熱ロスは甚大です。
外気導入量が増えている場合、過去のデータと比較しても「効率が悪化している」ように見えてしまいます。全熱交換器(熱を逃さずに換気する装置)の導入有無などで補正して考える必要があります。
3. 建物の「断熱劣化」
古い社屋や工場の場合、経年劣化で断熱材の効果が落ちていたり、隙間風が増えていたりすることがあります。これも「気温×使用量」のグラフで、年々データが「上振れ」していく傾向として現れます。
分析結果をどう活かす? totoka流のアクションプラン
分析をして、「今年は頑張った!」あるいは「思ったより成果が出ていない」とわかったら、次は何をすべきでしょうか。
成果が出ていた場合(効率が改善している)
ぜひ、そのデータを社内で共有し、社員の皆様を褒めてあげてください。
「電気代の金額は上がったけれど、君たちの努力のおかげで、本来かかるはずだったコストをこれだけ抑制できた(回避コスト)」と数字で示すことが、来年の省エネへのモチベーションになります。
成果が出ていなかった場合(効率が悪化、または横ばい)
運用改善(こまめな消灯や温度設定)だけでは限界に来ている可能性があります。
- 空調・ボイラー機器のメンテナンス不足(フィルター詰まりなど)
- 設備自体の老朽化による効率低下
- 契約プランと使用実態のミスマッチ
これらを疑う必要があります。特に北海道の場合、古いボイラーを最新の高効率機器やヒートポンプに入れ替えるだけで、燃料費が劇的に下がるケースも少なくありません。
自力での分析が難しいと感じたら
ここまで「気温データ×使用量」の話をしてきましたが、通常業務でお忙しい総務・経理担当者様が、毎月気象庁のデータをダウンロードしてExcelを叩くのは、正直なところ大変な手間かと思います。
- 「理屈はわかったけれど、計算する時間がない」
- 「ロードヒーティングや生産稼働率まで含めた、精密な分析がしたい」
- 「作ったグラフが合っているのか自信がない」
そう感じたときは、私たちのような専門家を頼ってください。
私たちtotokaは、北海道の気候特性を熟知しており、御社の過去のデータを預かるだけで、精密なエネルギー診断を行うことができます。
ただ「電気を安くする」だけでなく、「なぜ高くなったのか」「どこに無駄が隠れているのか」を、データに基づいて見える化します。
まとめ
今回の記事の要点をまとめます。
- 金額だけで一喜一憂しない:冬の光熱費は「気温」と「燃料単価」に大きく左右されます。
- 正しいものさしを持つ:「エネルギー使用量」を「気温データ(デグリーデー)」と照らし合わせて評価しましょう。
- 散布図で可視化する:Excelで「気温」と「使用量」のグラフを作り、過去の傾向と比較することで、真の省エネ効果が見えてきます。
【明日からできる3ステップ】
- STEP 1:過去2年分の光熱費の明細(電気・ガス・灯油)を引っ張り出す。
- STEP 2:今年の冬の「使用量」と「請求額」の推移を表にしてみる。
- STEP 3:もし「使用量は減っていない」あるいは「理由がわからず高騰している」なら、専門家の診断を受ける。
totokaへの相談
「うちの会社、本当に無駄なく暖房を使えているの?」と気になったら
エネルギーコストの削減は、現状を正しく把握することから始まります。
totokaでは、北海道内の法人様限定で、簡易エネルギー診断を実施しています。
お手元の「電気・ガス・灯油の検針票(過去1年分程度)」をご共有いただければ、気象条件を加味した分析を行い、「適正なエネルギーコスト」や「削減ポテンシャル」を診断いたします。
「まずは現状を知りたい」というだけでも構いません。無理な契約変更のお願いなどは一切いたしませんので、パートナーに相談するつもりで、お気軽にお問い合わせください。

