GX-ETSは大企業だけの話?北海道の中小企業に広がる取引先対応と省エネ要請

GX-ETS(排出量取引制度)とは、CO2の直接排出量が多い大規模な事業者を対象に、排出量の上限(排出枠)を設けて取引を可能にする国の制度です。2026年4月から本格稼働しました。直接の対象は大企業が中心で、北海道の多くの中小企業は対象になりません。

ただし、「自社は対象外だから関係ない」と言い切れないのが、この制度の特徴です。大企業が排出削減を進める過程で、その取引先である中小企業にも、排出量の算定や省エネ対応が間接的に求められる可能性があります。

本記事では、GX-ETSの仕組みと対象、そして北海道の中小企業に及びうる影響を整理します。あわせて、取引先対応に備えて今から準備できることを解説します。

この記事でわかること
✅ GX-ETS(排出量取引制度)の仕組みと2026年4月の本格稼働
✅ 制度の直接対象になる事業者の条件(CO2の直接排出量 年10万トン以上)
✅ 中小企業に直接の義務はないが、取引先経由で影響が及びうる理由
✅ サプライチェーンの排出管理で中小企業に求められる可能性があること
✅ 北海道の中小企業が今から準備できるCO2算定・省エネ対応

1. GX-ETSとは?まず制度の基本を整理

① 一言でいうと?

GX-ETSとは、CO2の直接排出量が多い大規模な事業者に排出枠(排出量の上限)を割り当て、その過不足を取引できるようにする国の制度です。正式には「排出量取引制度」と呼ばれます。

② 制度の背景・目的

GX-ETSは、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)に基づく制度です。脱炭素と産業競争力の強化を同時にめざす「成長志向型カーボンプライシング構想」の施策の一つとして位置づけられています。

「GX-ETS」という呼び名は、グリーン・トランスフォーメーション(GX)と、排出量取引制度を意味する Emissions Trading System(ETS)を組み合わせたものです。2026年4月(2026年度)から本格稼働しています。

③ 制度の全体像

まずは制度の全体像を、下の概要表で確認しましょう。

正式名称排出量取引制度(GX-ETS)
根拠法GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)
ポータル運営・執行GX推進機構(制度はGX推進法に基づく国の制度)
本格稼働2026年4月(2026年度)
直接の対象CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者
仕組み政府が排出枠を割り当て、過不足を市場等で取引
中小企業の扱い多くは直接の対象外(ただし間接的な影響に留意)
公式サイト排出量取引制度ポータルサイト(GX推進機構)

2. GX-ETSの対象になるのはどんな事業者?

結論として、GX-ETSの直接の対象は、CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で年10万トン以上の事業者です。これは大規模な排出事業者であり、北海道の多くの中小企業は直接の対象になりません。

区分内容
直接の対象CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で年10万トン以上の事業者
初年度の判定制度初年度(2026年度)は、全事業者が「自らが制度対象かどうか」を判定する
中小企業の多く10万トンの基準に達せず、直接の対象外となる
⚠ 「全事業者が判定する」とはどういう意味?

GX推進機構は、制度初年度(2026年度)に「各事業者が、自らが制度対象となるか否かを判定すること」を求めています。これは「すべての企業が届出をする」という意味ではなく、自社が10万トン基準に該当するかを確認する、という趣旨です。一般的な中小企業がこの基準に達することは、ほとんどありません。

3. GX-ETSの仕組み(排出枠の割当と取引)

GX-ETSでは、政府が制度対象者に毎年度、排出枠を割り当てます。制度対象者は排出実績量と同じだけの排出枠を保有する必要があり、過不足は市場等で取引できます。

政府(国) 毎年度、排出枠を割り当て 排出枠の割当 制度対象者(大規模排出事業者) CO2の直接排出量 年10万トン以上 排出枠の過不足を取引 排出枠取引市場 余剰・不足分を売買

図:GX-ETS(排出量取引制度)の基本的な仕組み

毎年度、制度対象者からの届出をもとに、政府が排出枠を割り当てます。制度対象者は、自社の排出実績量と同じだけの排出枠を保有することが求められます。

排出枠が足りない事業者は市場等で購入し、余った事業者は売却できます。これにより、排出削減を進めた事業者にメリットが生まれる仕組みです。

4. 制度対象者が2026年度に行うこと

制度対象となる事業者は、2026年度にCO2の直接排出量の算定・届出・移行計画の提出を行う必要があります。

⚠ これは「制度対象者」の手続きです

以下は、CO2直接排出量が年10万トン以上の「制度対象者」が行う手続きです。直接の対象でない中小企業に、これらの届出義務はありません。

STEP 1 制度対象かを判定 (全事業者) STEP 2 2026年4月1日~ CO2排出量等の算定 STEP 3 2026年9月30日まで 届出・移行計画の提出

図:制度対象者が2026年度に行う対応の流れ

GX推進機構によると、制度初年度(2026年度)の対応は次のとおりです。まず全事業者が、自社が制度対象かどうかを判定します。

制度対象である場合は、2026年4月1日からCO2の直接排出量等を算定します。そのうえで、2026年9月30日までに、制度対象である旨の届出と移行計画の提出を行います。

また、制度対象者が排出目標量や排出実績量を報告する際は、国に登録された「登録確認機関」による確認を受けることが義務づけられています。

5. 中小企業は本当に「無関係」?取引先経由の影響

結論として、中小企業にGX-ETSの直接の義務はありません。しかし、取引先である大企業を通じて、間接的な影響が及ぶ可能性があります。

重要 ここからは「見通し」です

ここで述べる「取引先経由の影響」は、GX-ETSの公式資料に明記された内容ではなく、脱炭素をめぐる近年の動向をふまえた見通しです。GX-ETSによって、中小企業に直接の法的義務が生じるわけではありません。

① なぜ取引先経由の影響が生じうるのか

GX-ETSは、大企業に自社の排出削減を強く意識させる制度です。大企業の多くは、これに加えて、サプライチェーン全体(部品や資材を供給する取引先を含む)の排出量にも目を向ける傾向を強めています。

その結果、大企業が取引先である中小企業に対して、排出量データの提供や削減への協力を求めるケースが、今後増えていく可能性があります。

大企業(GX-ETS制度対象者) 自社+取引先を含めた排出削減に取り組む 取引先への協力要請(見通し) 中小企業A 取引先・サプライヤー 排出量の算定・省エネ 中小企業B 取引先・サプライヤー 排出量の算定・省エネ 中小企業C 取引先・サプライヤー 排出量の算定・省エネ

図:サプライチェーンを通じた中小企業への間接的な影響(見通し)

② 中小企業に求められる可能性があること

今後、取引先から中小企業に対して、次のような対応が求められる場面が増えていくと考えられます。

  • 自社のCO2排出量(電気・燃料などに由来)の算定とデータ提供
  • 省エネや脱炭素の取り組み状況の説明
  • 排出削減の計画づくりへの協力

これらは現時点で「義務」ではありません。しかし、取引の継続や受注の条件として意識される場面が、徐々に増えていく可能性があります。

6. 中小企業が今から準備できる4つのこと

いきなり大がかりな対応をする必要はありません。まずは自社の排出量を把握し、省エネを進めることが、最も基本的で有効な準備です。

1
自社のCO2排出量を把握する
電気・灯油・ガソリンなどの使用量から、年間のCO2排出量を算定します。検針票や請求書が出発点になります。
2
省エネの取り組みを進める
設備更新や運用改善でエネルギー使用量を減らします。排出量の削減にも、コスト削減にも直結します。
3
取り組みを記録・整理する
いつ・何を・どれだけ改善したかを記録します。取引先から説明を求められたとき、すぐに示せる状態にしておきます。
4
必要に応じて専門機関に相談する
CO2算定や省エネ診断に不安がある場合は、エネルギー支援の専門機関に相談する方法もあります。
💡 ポイント:CO2算定と省エネ対策は「同じ準備」

CO2排出量の多くは、電気や燃料の使用に由来します。つまり、省エネを進めることは、そのまま排出量の削減につながります。取引先対応のためのCO2算定と、コスト削減のための省エネ対策は、別々のものではなく、ひとつの取り組みとして進められます。

7. GX-ETSをめぐるよくある誤解

GX-ETSについては、「中小企業にもすぐ義務が生じる」といった誤解が見られます。正しく理解しておくことが大切です。

誤解1:中小企業もすぐにGX-ETSの届出が必要

実際は…直接の対象は、CO2の直接排出量が年10万トン以上の大規模排出事業者です。多くの中小企業に、届出の義務はありません。

誤解2:自社が対象外なら、脱炭素は考えなくてよい

実際は…直接の義務はなくても、取引先を通じた影響は生じえます。早めの省エネと排出量の把握が、将来の備えになります。

誤解3:CO2算定には高度な専門知識が必須

実際は…基本的な算定は、エネルギー使用量に排出係数を掛けることで概算できます。まずは検針票をもとにした概算からで十分です。

8. 北海道の中小企業にとってのポイント

最後に、北海道で事業を営む中小企業の視点から、GX-ETSとの向き合い方を整理します。

北海道 押さえておきたいポイント

■ 北海道の中小企業の多くは直接の対象外
GX-ETSの直接の対象は、CO2の直接排出量が年10万トン以上の大規模排出事業者です。北海道の中小企業の多くは、この基準に達しません。まずは「直接の義務はない」と落ち着いて理解することが出発点です。

■ 寒冷地ゆえに排出量を把握しやすい面もある
北海道の事業所は、暖房用の灯油やガスの使用量が大きい傾向があります。CO2排出量の算定にあたっては、電気だけでなく、灯油やガスなど電気以外のエネルギー使用量も把握しておくことが重要です。

■ 取引先が道外の大企業の場合は特に留意
製造業や食品加工業など、道外の大企業と取引する北海道の中小企業は、サプライチェーン経由の要請を受けやすい立場にあります。取引先の脱炭素の動向に、早めに目を向けておくと安心です。

■ 省エネ対策が「攻めの準備」になる
省エネは、コスト削減と排出量削減を同時に実現します。補助金を活用した設備更新などを進めておけば、取引先対応にもそのまま生かせます。今からの一歩が、将来の備えになります。

9. 関連する制度・枠組みとの関係

GX-ETSのほかにも、脱炭素に関する制度や枠組みがあります。中小企業にとっては、CO2排出量の「見える化」と削減が共通の土台になります。

枠組み中小企業との関わり
GX-ETS(排出量取引制度) 直接の対象は大規模排出事業者。中小企業は取引先経由で間接的に影響を受けうる。
取引先(大企業)の排出削減目標 サプライチェーンの排出量を対象に含む場合があり、取引先に協力を求めることがある。
J-クレジット制度 省エネ・再エネによるCO2削減量を「クレジット」として国が認証する制度。中小企業も活用できる。

いずれの枠組みでも、出発点は「自社がどれだけCO2を出しているかを把握すること」です。排出量の把握は、特定の制度のためだけでなく、幅広い場面で役立つ基礎情報になります。

10. よくある質問(FAQ)

Q1. GX-ETSとは何ですか?

A. CO2の直接排出量が多い大規模な事業者に排出枠を割り当て、その過不足を取引できるようにする国の制度です。GX推進法に基づき、2026年4月から本格稼働しています。

Q2. 中小企業もGX-ETSの対象になりますか?

A. 直接の対象は、CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で年10万トン以上の事業者です。多くの中小企業はこの基準に達せず、直接の対象にはなりません。

Q3. 対象外なら、中小企業は何もしなくてよいですか?

A. 直接の義務はありませんが、取引先の大企業から排出量データの提供や省エネ対応を求められる可能性があります。自社の排出量の把握と省エネは、早めの備えになります。

Q4. CO2排出量はどうやって算定しますか?

A. 基本的には、電気・燃料などの使用量に排出係数を掛けて概算します。まずは検針票や請求書をもとにした概算から始めれば十分です。

Q5. GX-ETSはいつから始まりましたか?

A. GX推進法に基づく排出量取引制度として、2026年4月から本格稼働しています。制度対象者は2026年度に算定・届出・移行計画の提出を行います。

11. まとめ

GX-ETSと北海道の中小企業の関わりについて、重要なポイントを整理します。

  • GX-ETS(排出量取引制度)は、GX推進法に基づき2026年4月から本格稼働した国の制度です。
  • 直接の対象は、CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で年10万トン以上の大規模排出事業者です。
  • 北海道の中小企業の多くは直接の対象外ですが、取引先の大企業を通じた間接的な影響が生じる可能性があります。
  • 取引先から排出量データの提供や省エネ対応を求められる場面は、今後増えていくと考えられます。
  • 今からできる備えは、自社のCO2排出量の把握と省エネの推進です。CO2算定と省エネ対策は、ひとつの取り組みとして進められます。

記事情報
公開日:2026年5月18日
参照資料:GX推進機構「排出量取引制度ポータルサイト」(2026年5月18日確認)/経済産業省「排出量取引制度」
※本記事のうち、サプライチェーン経由の影響に関する記述は、脱炭素をめぐる動向をふまえた見通しであり、GX-ETSの公式資料に明記された内容ではありません。制度の最新情報は排出量取引制度ポータルサイトを必ずご確認ください。