北海道は、その地理的な条件から、エネルギーコストが企業の経営において大きな比重を占めるケースが少なくありません。近年、電力料金の高騰は多くの企業様の経営を圧迫しており、抜本的なエネルギーコスト削減策が喫緊の課題となっています。同時に、地球温暖化対策として「ゼロカーボン」への取り組みが全国的に加速しており、企業にも省エネや再生可能エネルギーの導入が求められています。
このような状況下で、企業がエネルギーコストを削減しつつ、環境負荷を低減するための有効な手段の一つが、自治体による補助金制度の活用です。北海道内でも様々な支援策が打ち出されていますが、本稿では、北海道木古内町が2025(令和7)年度から新たに開始する企業・事業者向けの省エネ促進事業【通称:ゼロきこ】を具体例として取り上げ、制度の概要、対象となる事業や事業者、申請方法、そして省エネ診断の重要性について詳しく解説します。
ゼロカーボンと企業の役割
「ゼロカーボンシティ」とは、国が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げていることに呼応し、多くの自治体が同様の目標設定を行うことを表明したものです。木古内町も、町内での温室効果ガス削減を目指し、ゼロカーボンシティ実現に向けた取り組みを進めています。
木古内町の地域温暖化将来ビジョンによれば、町全体の温室効果ガス排出量のうち、産業部門でのエネルギー消費(電気、化石燃料、ガスなどの使用)による排出が約15%を占めています。これは、産業部門の省エネ対策が町全体の温室効果ガス排出量削減に大きく貢献できることを意味します。
町全体で省エネに取り組み、温室効果ガス排出量を減らすことは、ゼロカーボンシティ実現のために非常に重要です。木古内町では、2024年度から家庭向けの省エネ促進事業を実施しており、これに加えて2025年度からは町内の企業・事業者に対する省エネ促進事業を新たに開始します。
この事業は、町内で事業運営している施設や設備等の省エネ性能を向上させることを目的としています。省エネ性能が高まれば、エネルギー消費量が減少し、温室効果ガス排出量の削減に繋がるだけでなく、エネルギー消費に係る経営負担の軽減にも寄与します。つまり、企業の省エネへの取り組みは、地球環境に貢献するだけでなく、企業の収益改善にも直結するのです。
木古内町ゼロカーボン推進事業【ゼロきこ】の概要:企業・事業者向け省エネ促進事業
木古内町が実施する企業・事業者向けの省エネ促進事業は、町内の企業や事業者が行う省エネ診断及び省エネ対策に対して補助金を交付するものです。この補助金制度を活用することで、初期投資の負担を軽減し、効果的な省エネを実現することが期待できます。
補助対象となる事業とは?
補助金の対象となる事業は、以下の1と2のすべてに該当する省エネ診断及び省エネ対策です。
- 補助対象者が自ら所有し、使用する施設、設備及び機器であること。
- 町内に所在する施設、設備及び機器であること。
これらの条件を満たす上で、具体的にどのような省エネ診断や省エネ対策が対象となるのでしょうか。
対象となる省エネ診断
以下のいずれかに該当する省エネ診断が対象となります。
- 一般財団法人省エネルギーセンターが実施する省エネ最適化診断
- 一般社団法人環境共創イニシアチブが実施する省エネクイック診断
- 一般社団法人環境共創イニシアチブが運営する省エネお助け隊ポータルの相談窓口一覧に登録している省エネお助け隊による省エネ診断
- その他、エネルギー管理士等の専門的な資格を有する者が実施した診断で、町長が特に認めるもの
省エネ診断は、自社のエネルギー使用状況を専門家に分析してもらい、具体的な課題や改善策を明らかにするための重要なステップです。例えば、株式会社イワクラは、一般社団法人環境共創イニシアチブが運営する省エネお助け隊である株式会社ノースパワーに省エネ診断を申し込んでいます。この事例では、受変電設備やコンプレッサといった設備のウォークスルー診断を希望しており、特に変圧器の入れ替えによるメリットやコンプレッサの運用方法に関するアドバイスを求めています。このように、専門家による診断を受けることで、自社の設備に合った効果的な省エネ対策を見つけることができます。
対象となる省エネ対策
以下のいずれかに該当する省エネ対策が対象となります。
- エネルギー消費量が省エネ対策以前から年率10%以上低減することが見込まれる設備、機器等の更新。変圧器の場合は、年間損失電力量が10%以上低減することが見込まれることが条件です。
- 経済産業省資源エネルギー庁が実施する省エネルギー対策促進支援事業費補助金「Ⅲ設備単位型」に登録されている指定設備への更新。この場合、省エネ対策以前より省エネ性能が高いものへの更新に限られます。
- 省エネ診断により提案された省エネ対策に係る費用。
- その他、省エネに寄与すると町長が認める費用。
これらの対策は、既存の設備の更新や改修を通じて、エネルギー効率を高めることを目的としています。例えば、高効率な空調設備や照明設備への更新、製造ラインで使用する動力設備の改善などが考えられます。
補助対象者となる事業者の要件
この補助金の交付を受けることができる事業者は、以下の1から7のすべてに該当する者です。
- 補助対象者から除外する業種等に該当しないこと。
- 申請日時点において木古内町で1年以上事業を行っている者で、かつ、補助金の交付を受けた日の属する年度の翌年度から5年以上事業を継続することを確約できる者。
- 個人事業者においては申請者及び世帯員、法人においては法人及び法人の代表者が町税等を滞納していないこと。
- 国、北海道、木古内町が実施するゼロカーボン推進に関する調査・アンケートに協力できる者。
- 会社更生法、民事再生法等に基づく更生又は再生手続きを行っている者でないこと。
- 暴力団等と関係がない者。
- 過去にこの補助金の交付を受けていないこと。
補助対象者から除外される業種等
以下の業種及び団体は補助対象から除外されます。
- 国、又は地方公共団体から資本金その他これらに準ずるものの1/4以上の出資を受けている法人等
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第6項から第10項に規定する営業
- 宗教、又は政治に関する団体
- その他、町長が適切でないと認める業種及び団体
また、補助対象事業を実施する事業所が支店、支所、営業所等のときは、その管理責任者を補助対象者にすることができます。この場合は委任状の提出が必要です。
補助対象となる経費と補助金の額
補助対象となる経費は、補助対象事業の実施に要する以下の経費に、該当する経費算入率を乗じて得た額です。ただし、補助対象外となる経費もあります。
- 調査費: 省エネ診断に係る費用
- 設備費: 補助対象事業に係る設備・備品等の導入に係る費用
- 設置工事費: 補助対象事業に係る設備等の設置工事に係る費用
- 処分費: 既存設備等の処分に係る費用
- 施設改修費: 施設改修に係る費用
- その他: 補助対象事業の実施に不可欠と町長が認める費用
補助対象経費は、補助対象事業を実施する年度の3月末までに完了した費用が対象となります。また、国、北海道、又はその他の団体から本事業と重複する補助金等の交付を受ける場合は、対象となる経費から重複する補助金等を差し引いた額に、該当する経費算入率を乗じて得た額となります。
補助対象外となる経費
以下の費用は補助対象外となります。
- 補助対象者が営む事業以外で使用することを目的としたものに係る費用
- 事業所の移転、新設及び拡張に要する費用
- 事業完了後、直ちに使用しない設備等に要する費用
- 保証金、保険料、公租公課(消費税及び地方消費税を除く)
- 人件費、事務費及び旅費
- 賃貸、電話料、通信費、水道光熱費などの経常経費
- 補助対象事業と直接関係ない工事に要する費用
- 申請者と同一の代表者又は資本関係がある事業者への発注に要する費用
- その他、町長が不適当と認める費用
補助金の額
補助金の額は、以下の計算式で算出されます。
補助対象経費 × 1/2 (千円未満切捨て)
上限額は100万円です。補助金の交付は、1事業者につき1回が限度となります。
補助金申請のプロセスと留意事項
補助金の申請は、原則として省エネ診断又は省エネ対策に係る工事等の着手(発注、注文等)前に、町へ補助金の交付申請書を提出する必要があります。
申請から補助金交付までの基本的な流れ
- 業者から省エネ診断又は省エネ対策の見積書・カタログ等をもらう。
- 町へ補助金交付申請書を提出(省エネ診断又は省エネ対策の着手前)。
- 町が申請内容を審査し、補助金交付決定通知書を送付。
- 省エネ診断又は省エネ対策を業者へ発注。
- (希望する場合) 町へ補助金の概算払申請書を提出。
- 概算払申請書(第8号様式)と添付書類(契約書等の写し、振込口座がわかるものの写し)が必要。
- 町から補助金の概算払い。
- 省エネ診断又は省エネ対策の費用を業者へ支払い。
- 町へ実績報告書を提出。
- 実績報告書(第9号様式)と添付書類(契約書、納品書の写し、完了後の現況写真、他の補助金等の交付決定通知書の写し)が必要。
- 報告内容を審査し、町から補助金交付額の確定通知を送付。概算払交付額が実績額を上回っている場合は差額分を戻入します。
- 町へ補助金の交付請求書を提出。
- 交付請求書(第11号様式)が必要。
- 町から補助金を交付。
申請にあたっての留意事項
- 補助金の交付申請書を提出する前に省エネ診断を実施し、その診断結果を受けて省エネ対策を実施する場合、省エネ診断の実施日が補助金の申請書提出日と同一年度内であれば、省エネ診断に係る費用も補助対象経費に含めることができます。
- 町が実施している他の事業と重複して申請することはできません。
- 補助金交付申請書提出後から実績報告書提出までの間に、申請内容に変更が生じる場合は、町へ補助金の変更交付申請書(第6号様式)を提出する必要があります。添付書類は変更が生じるもののみで構いません。
申請書類・添付書類の例
申請時には、以下の書類の提出が求められます。
- 補助金交付申請書(第1号様式)
- 事業計画書(第2号様式)
- 誓約書兼同意書(第3号様式)
- 委任状(第4号様式)(必要な場合)
- 補助対象経費に係る見積書の写し
- 省エネ対策を実施する前の施設、設備等の現況写真
- 省エネ対策に係る施設改修、設備更新等の箇所がわかる書類の写し(平面図等)
- 省エネ対策で購入する製品等の品番及び省エネ性能の詳細がわかる書類の写し
- 省エネ診断を実施する団体等や診断の内容がわかる書類の写し(省エネ診断を実施する場合のみ)
- 省エネ診断の結果がわかる書類の写し(既に省エネ診断を受けた場合のみ)
- 補助対象経費の契約書、発注書、注文書又は納品書の写し(概算払い申請時または実績報告時)
- 補助金の振込口座がわかるものの写し(申請者本人又は申請法人名義のもの)(概算払い申請時または交付請求時)
- 省エネ対策完了後の現況写真(着手前と完了後が比較できるもの)(実績報告時)
- 国、北海道、その他団体等からの補助金等の交付決定通知書の写し(実績報告時)
- 交付請求書(第11号様式)
- その他、町長が必要と認める費用
事業運営状況等の調査
実績報告書を提出した日の属する年度の翌年度から5年間、町が本事業の運営状況等の調査を行うことがあります。調査を実施する際はその内容について通知されます。
今年度の予算状況と今後の実施予定
本事業に係る補助金の申請・交付額が今年度の予算額を上回ったときは、その時点で今年度の補助金の申請受付を終了します。申請・交付状況については、町が提供する情報で確認できます。令和7年4月1日現在の申請・交付状況は0.0%(予算上限500万円)です。
本事業は複数年実施する予定です。もし今年度申請できなかった場合でも、次年度以降の実施予定を確認し、検討することができます。
FAQ:木古内町ゼロカーボン推進事業について
ここでは、木古内町の省エネ促進事業に関するよくある質問とその回答をまとめました。
Q1: 補助金の対象となる事業者はどのような条件を満たす必要がありますか? A1: 申請時点で木古内町で1年以上事業を行っており、補助金交付後5年以上事業を継続できる事業者で、町税を滞納していないこと、暴力団等と関係がないことなどの要件を満たす必要があります。一部、補助対象から除外される業種があります。
Q2: どんな省エネ対策が補助対象になりますか? A2: 省エネ診断で提案された対策や、エネルギー消費量が年率10%以上低減見込みの設備更新、経済産業省の指定設備への更新などが対象になります。補助対象となる施設・設備は、町内に所在し、申請者が所有・使用するものです。
Q3: 補助金はいくらもらえますか? A3: 補助対象経費の1/2が交付され、上限は100万円です。1事業者につき1回の交付となります。
Q4: いつまでに申請すればいいですか? A4: 原則として、省エネ診断または省エネ対策工事等の着手(発注、注文等)前に申請する必要があります。ただし、省エネ診断の費用は、申請書提出日と同一年度内に診断を実施していれば補助対象経費に含めることが可能です。今年度の予算には上限があり、上限に達し次第受付終了となりますので、早めの検討をお勧めします。
Q5: 申請にはどのような書類が必要ですか? A5: 補助金交付申請書のほか、事業計画書、誓約書兼同意書、見積書、現況写真、図面、導入製品の詳細情報、省エネ診断関連書類など、様々な書類が必要になります。詳細は町の要綱等をご確認ください。
Q6: 既に省エネ診断を受けた場合、その費用も対象になりますか? A6: はい、補助金の交付申請書を提出する前に省エネ診断を実施し、その診断結果を受けて省エネ対策を行う場合で、省エネ診断の実施日が補助金の申請書提出日と同一年度内であれば、省エネ診断に係る費用も補助対象経費に含めることができます。
Q7: 申請状況はどこで確認できますか? A7: 木古内町のウェブサイトなどで申請・交付状況が公表されます。今年度(令和7年4月1日現在)の予算執行率は0.0%です。
まとめ
木古内町が新たに開始する企業・事業者向け省エネ促進事業は、「ゼロカーボン」の実現と企業のエネルギーコスト削減という二重のメリットをもたらす魅力的な制度です。特に、産業部門からの温室効果ガス排出量が町全体の15%を占める木古内町において、企業の省エネは地域全体の目標達成に不可欠な要素と言えます。
補助金を活用することで、省エネ診断による課題の明確化や、高効率設備への更新といった具体的な対策を実行しやすくなります。これにより、エネルギー消費量の削減を通じたコストダウンと、環境負荷の低減を同時に実現することが期待できます。
エネルギーコストの高騰に直面している北海道の企業様にとって、このような自治体の支援制度は活用しない手はありません。自社のエネルギー使用状況を見直し、専門家による診断を受け、最適な省エネ対策を実行することが、持続可能な経営を実現するための重要な一歩となります。
エネルギーコスト削減でお悩みの際は、ぜひ株式会社totokaまでお気軽にご相談ください。 経験豊富な専門家が、お客様の状況に合わせた最適な省エネ対策や、活用できる補助金制度について丁寧にご提案いたします。