はじめに
北海道内の主要都市では、地球温暖化対策の一環として、環境に配慮した取り組みを行う事業者を市が認定する制度が広がっています。
特に冬の暖房エネルギー消費量が多い北海道にとって、省エネはコスト削減に直結する重要な経営課題です。また、国が推進する「2050年カーボンニュートラル」に向け、地域の中小企業が取り組める仕組みとしても注目されています。
この記事では、小樽市・札幌市・旭川市・函館市の認定制度を中心に、その目的や企業側が得られるメリットを分かりやすく解説します。
小樽市:「おたるゼロカーボン推進事業者認定制度」
小樽市が2025年8月から開始した制度で、ゼロカーボン(脱炭素)に貢献する事業者を認定し、その活動を広くPRします。事業者の自主的な省エネ活動を促し、地域全体で脱炭素化を進めることが目的です。
概要と特徴
市内の事業者が対象で、取り組みのレベルに応じて3段階の星(★)で認定されるのが特徴です。これにより、企業は段階的にレベルアップを目指せます。
- ★1(一つ星)認定
- クールビズやウォームビズの実践、ペーパーレス化、ごみの分別など、比較的始めやすい取り組みが対象です。
- ★2(二つ星)認定
- 自社の温室効果ガス排出量を把握し、具体的な削減目標を立てるなど、計画的な取り組みが求められます。
- ★3(三つ星)認定
- 太陽光発電など再生可能エネルギー設備を導入し、実質的なカーボンニュートラルを目指す、より高度な取り組みが評価されます。
取得メリット
認定を受けることで、企業は「環境に配慮している」という社会的な信頼を得られるだけでなく、経営上のメリットも期待できます。
- PR効果による企業イメージ向上
- 市のホームページやイベントで取り組みを紹介してもらえ、企業の認知度やブランドイメージが向上します。
- コスト削減と業務効率化
- クールビズによる空調費の削減や、ペーパーレス化による消耗品費の削減など、経費節減に直接つながります。
- 将来的な優遇措置への期待
- 市は今後、補助金や融資の際に認定事業者を優遇するなどのメリット拡充を計画しています。
札幌市:「さっぽろエコメンバー登録制度」
札幌市が運営するこの制度は、自主的に環境活動を行う事業者を「エコメンバー」として登録し、市民に広く紹介するものです。厳しい「認証」ではなく、事業者が自己申告で参加できる「登録」制度なので、中小企業でも気軽に参加しやすいのが魅力です。
制度の特徴と目的
エコな取り組みを行う事業者を「見える化」し、その活動を他の企業や市民に広めることが主な目的です。市が審査するのではなく、事業者の前向きな姿勢を応援するスタイルを取っています。
取得メリット
登録のメリットは、PR効果だけでなく、具体的な経営支援にまで及ぶのが大きな特徴です。
- 市の公式なPR支援
- 市のホームページで企業情報や取り組みが公開されます。
- 店舗や名刺、ウェブサイトに使える認定ステッカーやロゴマークが提供され、環境配慮型企業であることをアピールできます。
- 幅広いネットワークへの参加
- 札幌商工会議所が運営する「札幌ゼロカーボン推進ネットワーク」に参加でき、さらに広い範囲でPRが可能になります。
- 北海道が実施する他の環境制度(グリーン・ビズ認定制度など)とも連携しており、登録の手間が省けます。
- 金融機関からの優遇
- 提携する北洋銀行や北海道銀行から、環境配慮型企業向けの優遇金利ローンを利用できる可能性があります。
- 省エネ設備導入など、環境投資のための資金調達がしやすくなるのは、中小企業にとって大きな助けとなります。
旭川市:「あさひかわエコショップ」認定制度
旭川市の制度は、特に「ごみの減量」や「リサイクル」に焦点を当てています。ごみの発生抑制(リデュース)や再使用(リユース)に積極的に取り組む店舗を「エコショップ」として認定し、市民に利用を推奨しています。
制度の概要
スーパーや飲食店、小売店など、市内の幅広い業種の店舗が対象です。市の定めた環境配慮項目のうち、3つ以上を実践していることが認定の条件となります。
- 主な取り組み例
- 簡易包装の推進
- マイバッグ持参の呼びかけ
- 詰め替え商品を充実させる
- 食品ロスの削減(割引販売など)
- ランク分け
- 取り組みの数に応じて「1つ星」から「3つ星」までランク分けされ、より多くの活動を実践している店舗が高く評価されます。
取得メリット
地域に根差した店舗にとって、お客様からの信頼を高める絶好の機会となります。
- 集客とブランドイメージ向上
- 市のホームページやイベントでPRしてもらえるほか、店頭に貼れる「認定ステッカー」が交付されます。
- このステッカーが目印となり、環境意識の高い消費者がお店を選ぶきっかけになります。
- 直接的な経費削減
- 過剰包装をやめれば包装資材費が、食品ロスを減らせば仕入れ原価が削減され、直接的なコストダウンにつながります。
- 継続的な改善意欲の向上
- 取り組み内容を増やすことで認定ランクを上げることも可能で、従業員のモチベーション維持にも役立ちます。
函館市:「ごみ減量・再資源化優良店」認定制度
函館市では1998年からこの制度が続いており、道内でも先進的な取り組みとして知られています。包装の簡素化やマイバッグ持参の推奨など、ごみ減量に取り組む店舗を「環境にやさしいお店」として認定しています。
制度の概要と実績
対象は市内の小売店や事業所で、認定されると「認定証」と「認定ステッカー」が交付されます。このステッカーが、環境に配慮した店舗であることの目印です。 25年以上の歴史があり、2023年時点で認定店舗数は221にものぼり、市内に広く浸透しています。
取得メリット
長年の実績がある制度だからこその、安定した信頼性が魅力です。
- 行政のお墨付きによる信頼性向上
- 市のホームページで認定店として紹介され、お客様からの信頼を得やすくなります。
- 従業員の意識向上
- 「優良店」として認められることが従業員の誇りとなり、職場全体の環境意識を高める効果が期待できます。
- 市からの継続的なサポート
- リサイクルに関するノウハウや他店の優良事例などの情報提供を受けられ、さらなる改善につなげることができます。
北海道全体の取組と全国制度との比較
これまで紹介した市町村の取り組みをまとめる形で、北海道庁も「北海道グリーン・ビズ認定制度」を運営しています。これは道内全域の事業者を対象とし、取り組みレベルに応じて段階的に認定する仕組みで、各市の制度とも連携しています。
全国にも「エコアクション21」のような環境認証制度はありますが、自治体の制度には次のような強みがあります。
- 地域特性への配慮
- 暖房需要の大きい北海道の事情に合わせた省エネ基準など、地域の実情に合った評価が受けられます。
- 参加のしやすさ
- 国際規格の取得に比べて手続きが簡単で、費用もかからない場合がほとんどです。中小企業にとって参加のハードルが低いのが大きな魅力です。
- 継続的なフォロー
- 認定して終わりではなく、ランクアップ制度や情報提供など、企業の継続的な取り組みを応援する仕組みが整っています。
これらの制度は、国の大きな目標を、地域の中小企業が実践するための「推進エンジン」として重要な役割を果たしています。
おわりに
環境への配慮は、今や企業の社会的責任であると同時に、競争力を高めるための「投資」です。特にエネルギーコストが経営に響きやすい北海道では、省エネがもたらす経費削減効果は計り知れません。
今回ご紹介した各自治体の認定制度は、その第一歩を力強く後押ししてくれます。
認定を受けることで得られる「公的な信頼」、「PR効果」、そして「金融優遇」といったメリットは、企業の成長に必ずプラスに働きます。何より、「私たちの会社は、本気で環境に取り組んでいる」というメッセージは、従業員の誇りを育み、地域から愛される企業文化を築く礎となるでしょう。
これらの認定制度を上手に活用し、地域と地球に優しい企業として、新たな一歩を踏み出してみませんか。