BCP対策と非常用発電機の燃料選択方法について解説

2018年9月、北海道胆振東部地震により道内全域約295万戸が停電する「ブラックアウト」が発生しました。日本で初めてとなるこの大規模停電は、復旧までに最長約2日間を要し、交通・通信・物流が一斉に停止。北海道の企業経営者に「電力が止まったとき、事業を続けられるか」という根本的な問いを突きつけました。

あの経験から7年以上が経ちましたが、御社の停電対策は十分でしょうか。本コラムでは、BCP(事業継続計画)の基礎知識から、非常用発電機の種類と選び方、北海道企業が押さえるべき燃料選択のポイントまで、わかりやすく解説します。

この記事でわかること
✅ BCP対策の基本と、なぜ非常用発電機が不可欠なのか
✅ 北海道胆振東部地震のブラックアウトから得られた教訓
✅ ディーゼル・ガスタービン・LPガス・ガソリン発電機の比較
✅ 燃料選択で失敗しないための判断基準
✅ 「72時間」の電源確保が求められる根拠と対策

1. BCP(事業継続計画)とは? ── 企業を守る「備えの計画」

BCP(Business Continuity Plan)とは、地震や台風、感染症などの緊急事態が発生した際に、損害を最小限にとどめ、事業の継続や早期復旧を可能にするための計画です。日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。

BCPの策定にあたっては、主に次の5つのポイントが重要とされています。

中核事業の選定緊急時に優先して継続・復旧させる事業を明確にする
目標復旧時間の設定中核事業をいつまでに復旧させるか具体的な期限を定める
代替手段の確保事業拠点・設備・調達先の代替策を用意しておく
緊急対応手順の策定発災直後の初動対応、従業員の安否確認手順を整備する
電力の確保非常用発電機や蓄電池など、停電時の電源を確保する

内閣府が行った調査では、災害時に重要な業務が停止した原因として最も多かったのは「停電」(27.8%)でした。つまり、BCP対策の中でも電源確保は最優先で取り組むべきテーマといえるでしょう。

北海道 北海道胆振東部地震のブラックアウトが突きつけた現実

2018年9月6日午前3時7分、北海道胆振東部で最大震度7の地震が発生しました。震源地付近の苫東厚真火力発電所が停止したことを発端に、道内全域約295万戸が停電するブラックアウトが発生。鉄道・地下鉄・バスなどの交通インフラは全面運休、通信やATMも停止し、北海道経済は一時的にまひ状態に陥りました。復旧までに約2日を要し、農業分野では生乳約2万トン(被害額約24億円)が廃棄されるなど、甚大な経済的損失が生じています。この経験は、北海道の企業にとってBCP対策と非常用電源の重要性を痛感させる出来事でした。

2. なぜ非常用発電機がBCPに不可欠なのか

非常用発電機とは、停電時に自動または手動で起動し、事業所や施設に電力を供給する装置です。通常の電源が途絶えた場合でも、必要な機器を稼働させることで事業の中断を防ぎます。

① 停電時に発電機で守るべきもの

限られた電力の中でどの設備を優先するかは、業種によって異なります。事前に優先順位を決めておくことが重要です。

業種優先すべき設備停止した場合のリスク
全業種共通通信機器(電話、サーバー、ネットワーク)、照明情報収集・連絡手段の喪失、安全確保の困難
医療・介護施設医療機器、空調、ナースコール入居者・患者の生命に直結
製造業・工場生産ライン、冷凍・冷蔵設備製品の損失、納期遅延による信用低下
小売・飲食レジ、冷蔵・冷凍ケース、照明食品廃棄、営業継続の不可
農畜産業搾乳機、バルククーラー、ハウス暖房生乳廃棄、家畜の健康被害
ホテル・旅館空調、エレベーター、給湯設備宿泊客の安全・快適性の低下

② 「72時間」の電源確保が目安

内閣府の「大規模災害時における地方公共団体の業務継続の手引き」では、「72時間は外部からの供給なしで非常用電源を稼働可能とする措置が望ましい」とされています。この72時間(3日間)は、大規模災害の初期対応に必要な最低限の時間です。

💡 ポイント:防災用と保安用(BCP用)は別物

消防法や建築基準法で設置が義務づけられている非常用発電機は「防災用」であり、スプリンクラーや非常用エレベーターなど消防設備に電力を供給するものです。一方、事業継続のための電源は「保安用(BCP用)」として別に確保する必要があります。「うちには非常用電源がある」と思っていても、消防設備専用で事務機器やサーバーには使えない場合があるので、必ず確認しましょう。

3. 非常用発電機の種類と特徴を比較

非常用発電機にはいくつかの種類があり、燃料や出力規模によって特性が大きく異なります。自社の事業規模や設置環境に合った発電機を選ぶことが重要です。

種類燃料発電容量連続運転特徴
ディーゼル発電機軽油(A重油)中〜大規模長時間可能最も普及。燃費が良く長時間運転に適する。振動・騒音がやや大きい。
ガスタービン発電機灯油・軽油・ガス大規模長時間可能高出力で電気の品質が安定。排気がクリーン。データセンター等に最適。
LPガス発電機LPガス小〜中規模長時間可能燃料の劣化がなく長期保存可能。ボンベ配送で燃料補給が容易。
ガソリン発電機ガソリン小規模数時間程度小型・軽量で携帯可能。価格が安い。燃料劣化が早く長期備蓄には不向き。

① ディーゼル発電機 ── 大規模施設の定番

最も広く普及しているタイプで、工場や病院、大規模商業施設などでの導入実績が豊富です。軽油やA重油を燃料とし、長時間の連続運転が可能で燃費も優れています。ただし、運転時の振動と騒音がやや大きいため、住宅密集地では配慮が必要になります。

② ガスタービン発電機 ── 高出力・高品質な電力

大規模な発電能力を持ち、電力品質が安定しているのが特徴です。サーバーや精密機器を扱うデータセンターなどに適しています。ディーゼルに比べて振動が少なく排気もクリーンですが、機器の導入コストは高めです。

③ LPガス発電機 ── 燃料劣化の心配なし

LPガスは「エネルギー供給の最後の砦」とも呼ばれ、国土強靱化基本計画でも重要な位置づけにあります。最大のメリットは、燃料が劣化しないため長期間の備蓄が可能な点です。ボンベによる「軒下在庫」で常に燃料が確保でき、災害時の調達にも優れています。

④ ガソリン発電機 ── 小規模・緊急用に

小型・軽量で持ち運びができるため、緊急時の応急対応に適しています。価格も比較的安価です。ただし、ガソリンは半年程度で劣化するため定期的な入れ替えが必要であり、大規模な事業継続には向きません。

⚠ 消防設備用の発電機をBCPに流用する場合の注意

消防用設備の非常電源として設置されている自家発電設備を一般負荷(事務機器等)にも使うことは、消防用の燃料や電力容量が常に確保されている場合に限り可能とされています。ただし、電力需給対策で手動起動に設定変更した場合は、使用後に速やかに自動起動設定に戻す必要があります。専門家に確認のうえ運用しましょう。

4. 北海道の企業が知っておくべき燃料選択のポイント

非常用発電機を導入する際、見落としがちなのが燃料の選択です。どの燃料を選ぶかによって、長期保存性、調達のしやすさ、コスト、そして寒冷地での使い勝手が大きく変わります。

比較項目軽油(ディーゼル)LPガスガソリン
長期保存性半年〜1年程度で劣化劣化なし(半永久的に保存可能)3〜6か月で劣化
災害時の調達ガソリンスタンドに依存(停電時は給油不可の場合あり)ボンベ配送で調達可能スタンドに依存・買い占めリスクあり
寒冷地での使用低温で燃料が固まるリスクあり(寒冷地用軽油で対応)低温でも安定して気化低温時の始動性にやや課題
燃料コスト比較的安価やや高めやや高め
取り扱い資格大量備蓄時は危険物取扱者が必要保安員の選任が必要な場合あり大量備蓄時は危険物取扱者が必要
北海道 北海道ではLPガスの「地の利」が活きる

北海道では、多くの事業所や施設でLPガスが日常的に使われています。既に設置されているLPガスボンベやバルク貯槽をそのまま非常用発電機の燃料として活用できる点は大きなメリットです。燃料の劣化を心配する必要がなく、厳寒期でも安定的に使用でき、ボンベの定期配送で燃料切れの心配もありません。「災害バルク補助金」を活用してLPガス非常用発電設備を導入した介護施設や工場の事例も道内で増えています。

💡 ポイント:複数電源の組み合わせが最も効果的

近年は、LPガス発電機・太陽光発電・蓄電池を併用する「ハイブリッド型」の非常用電源システムも注目されています。単一の燃料に依存するリスクを避け、それぞれの長所で短所を補い合うことで、長期間の電力安定供給が可能になります。特に太陽光発電と蓄電池の組み合わせは、平時の電気代削減やCO2削減にも貢献するため、脱炭素経営との両立も期待できるでしょう。

5. 非常用発電機の選び方 ── 4つの判断基準

非常用発電機を選定する際は、以下の4つの基準で検討することをおすすめします。

① 必要な発電容量を算出する

まず、停電時に稼働させたい設備をすべてリストアップし、合計の電力消費量(kW)を算出します。通信機器、照明、空調、冷凍冷蔵庫など、優先度の高いものから順に積み上げて必要容量を決定しましょう。

② 連続運転時間を想定する

どれだけの時間、発電を続ける必要があるかを想定します。内閣府のガイドラインでは72時間が目安ですが、事業の特性によってはそれ以上が求められるケースもあります。長時間運転にはディーゼルやLPガス発電機が適しています。

③ 燃料の調達と保管を確認する

災害時に燃料を入手できるかは極めて重要な判断基準です。軽油の大量備蓄には危険物取扱所としての規制があり、事後的に大容量燃料タンクを追加しようとしても申請が通りにくいケースがあります。設置計画の段階から燃料の保管量と補給手段を検討しておきましょう。

④ 設置場所と法令要件を確認する

非常用発電機の設置には、消防法や建築基準法、電気事業法による規制があります。浸水リスクのない場所に設置すること、騒音や排気への配慮も必要です。専門業者に設置場所の現地調査を依頼し、法令に適合した計画を立てることが欠かせません。

6. 「いざという時」に動かすための点検・メンテナンス

非常用発電機は、普段は使わない設備だからこそ、定期的な点検とメンテナンスが極めて重要です。過去の災害では、点検を怠っていた非常用発電機が起動しなかったり、発火したという事例も報告されています。

1
定期点検(月次・年次)
動作確認、冷却水・エンジンオイルの量と状態チェック、バッテリーの充電状態、外観の目視確認を行います。法令で定められた点検スケジュールに従いましょう。
2
燃料管理
軽油やガソリンは経年劣化するため、定期的な入れ替えが必要です。燃料の保管量と消費期限を管理台帳で記録し、補給ルートも確認しておきます。
3
負荷試験(年次)
実際に発電機に負荷をかけて運転する「負荷試験」は、防災用・保安用ともに実施が求められます。無負荷での試運転だけでは、実際の災害時に正常動作するか確認できません。
4
運用マニュアルの整備と訓練
発電機の起動手順、燃料補給方法、優先供給先の切り替え手順をマニュアル化し、従業員に周知します。年に1回以上の実地訓練を行うことで、緊急時にスムーズに対応できます。
⚠ 北海道の冬季はメンテナンスに特別な注意を

寒冷地では、バッテリーの容量低下や軽油の凍結(ワックス析出)が起きやすくなります。冬季前の点検では、バッテリーの充電状態確認、寒冷地用軽油への切り替え、冷却水の不凍液濃度チェックを必ず実施しましょう。LPガス発電機の場合は低温による燃料トラブルが少ない点もメリットのひとつです。

7. BCP対策として非常用発電機を導入するステップ

非常用発電機の導入は「機器を買って設置すれば終わり」ではありません。BCPの一環として計画的に進めることが大切です。

1
リスク評価と中核事業の特定
自社にとって停電がどのような影響を及ぼすかを洗い出し、優先的に守るべき事業と設備を明確にします。
2
必要な電力量と運転時間を算出
優先設備の消費電力を積み上げ、最低72時間の電源確保に必要な発電容量と燃料量を計算します。
3
発電機の種類と燃料を選定
事業規模、設置環境、燃料の調達性を総合的に判断し、最適な機種を選びます。北海道ではLPガスの調達優位性も考慮しましょう。
4
設置場所の調査と法令確認
浸水リスク、積雪対策、騒音規制、危険物規制などを踏まえ、適切な設置場所を決定します。消防・電気事業法の申請手続きも進めます。
5
導入・設置工事 → 運用体制の構築
設置後は運用マニュアルを作成し、定期点検のスケジュールと訓練計画を決めます。BCPは「作って終わり」ではなく、継続的な見直しと改善が欠かせません。

8. まとめ ── 北海道の企業こそ「電源確保」を最優先に

BCP対策において、非常用発電機による電源確保は最も基本的かつ重要な対策です。北海道胆振東部地震のブラックアウトは、道内のあらゆる業種に「停電リスク」の深刻さを実感させました。

非常用発電機を選ぶ際は、発電容量・連続運転時間・燃料の種類・設置場所の4つの基準で検討し、定期的な点検と訓練を欠かさないことが大切です。加えて、複数の電源を組み合わせるハイブリッド型の導入や、太陽光発電・蓄電池との併用も、長期的な事業継続力の向上に有効な選択肢となります。

北海道 今すぐ確認すべき3つのこと

① 自社の非常用電源の現状を確認する ── 防災用専用なのか、BCP用としても使えるのか。容量は足りているか。
② 燃料の備蓄状況を点検する ── 軽油やガソリンは劣化していないか。LPガスへの切り替えも検討する。
③ 停電時の運用マニュアルを整備する ── 誰が、どの手順で発電機を起動し、どの設備に電力を供給するかを明文化しておく。
北海道は地震リスクに加え、冬季の暴風雪による停電リスクも抱えています。「まだ大丈夫」ではなく、「次に備えて今動く」ことが、企業の事業継続を左右します。

記事情報
公開日:2023年4月5日(初版)
リニューアル日:2026年3月27日
参照資料:内閣府「大規模災害時における地方公共団体の業務継続の手引き」、内閣府「令和元年版 防災白書 平成30年北海道胆振東部地震」、経済産業省 資源エネルギー庁「日本初の”ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」、内閣府「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」
※本記事は上記資料に基づいて作成しています。最新の制度情報や補助金については各公式サイトをご確認ください。
資源エネルギー庁(ブラックアウト解説)内閣府(令和元年版防災白書)