北海道で事業を営む企業にとって、空調設備は経営コストに直結する重要な課題です。冬場の暖房はもちろん、近年は夏場の冷房需要も高まっており、年間を通じた空調コストの最適化が求められています。
そうした中で注目されているのが「吸収式冷温水機(きゅうしゅうしきれいおんすいき)」です。電気ではなくガスや蒸気の”熱”を利用して冷暖房を行うこの設備は、オフィスビルや病院、ホテルなどの大規模施設で50年以上の実績があります。
本コラムでは、吸収式冷温水機の仕組みから北海道で活用するメリットまで、わかりやすく解説します。
この記事でわかること
✅ 吸収式冷温水機の基本的な仕組みと原理
✅ 電気式(ヒートポンプ)との違いと比較
✅ 北海道の企業が吸収式冷温水機を導入するメリット
✅ 北海道ガスが提供するガス吸収冷温水機の特徴
✅ 導入時の注意点と検討のポイント
北海道では冬の暖房が空調コストの大部分を占めますが、近年は札幌をはじめ夏場の冷房需要も増加しています。一台で冷房・暖房の両方に対応できる吸収式冷温水機は、北海道の病院やホテル、オフィスビルなどで採用が進んでいる空調システムです。北海道ガス株式会社もガス吸収冷温水機を法人向けにラインアップしています。
1. 吸収式冷温水機とは?基本の仕組みを解説
① 「吸収式」ってどんな方式?
吸収式冷温水機とは、冷水と温水をつくる空調用の「熱源機」の一種です。家庭用エアコンのように電気で圧縮機(コンプレッサー)を動かす方式ではなく、ガスや蒸気などの熱エネルギーを利用して冷暖房を行います。
冷媒には自然界にある「水」を使用するため、「ナチュラルチラー」とも呼ばれています。フロンガスを一切使わない、環境にやさしい空調方式です。
② 4つのサイクルで冷暖房を実現
吸収式冷温水機は「蒸発」「吸収」「再生」「凝縮」という4つのステップを繰り返して動作します。少し専門的になりますが、身近な例でイメージしてみましょう。
夏場に地面に水を撒くと涼しくなりますよね。これは水が蒸発するときに周囲の熱を奪う「気化熱」という現象です。吸収式冷温水機は、機器の内部をほぼ真空状態にすることで水を約7〜10℃という低い温度でも蒸発させ、この気化熱を利用して冷水をつくります。
冷房時の動作を簡単に4ステップで説明すると、次のようになります。下の図は、吸収式冷温水機の冷房サイクルの全体像です。
真空に近い状態の蒸発器の中で、水(冷媒)が低温で蒸発します。このとき周囲の熱を奪い、配管内の水を冷やして冷水をつくります。
蒸発した水蒸気を、臭化リチウム(しゅうかリチウム)という吸収液が吸い込みます。これにより蒸発器内の真空状態が維持されます。
水蒸気を吸って薄まった吸収液を、ガスの火などで加熱します。すると水蒸気が分離し、吸収液は元の濃い状態に戻ります。
分離した水蒸気を冷却水で冷やして、再び水に戻します。この水が蒸発器に送られ、サイクルが繰り返されます。
暖房時はこのサイクルを切り替え、ガスの燃焼熱で直接温水をつくって各部屋に送ります。ボイラーと同じ原理で温水を供給するため、外気温が低い寒冷地でも暖房能力が落ちにくいのが大きな特徴です。
臭化リチウムは、海水由来の臭素とリチウム鉱石から作られる白色の結晶です。食塩に似た性質をもち、毒性がなく人体に無害な物質です。水分を非常に吸いやすい性質を利用して、吸収式冷温水機の「吸収液」として使われています。
2. 電気式(ヒートポンプ)との違いを比較
業務用空調の熱源機には、大きく「吸収式」と「電気式(ヒートポンプ・ターボ冷凍機など)」の2つの方式があります。まずは下の図で、2つの方式の仕組みの違いをイメージでつかんでみましょう。
それぞれの違いを詳しく表にまとめると、次のとおりです。
| 比較項目 | 吸収式冷温水機 | 電気式(ヒートポンプ等) |
|---|---|---|
| 主な動力源 | ガス・蒸気・廃熱など | 電気 |
| 冷媒 | 水(ノンフロン) | フロンガス(代替フロン含む) |
| 消費電力 | 非常に少ない(補機類のみ) | 大きい |
| 運転音 | 静か(圧縮機がない) | コンプレッサー音あり |
| 1台で冷暖房 | 可能 | 機種による |
| 寒冷地での暖房 | 能力低下しにくい | 外気温低下で効率低下 |
| 停電時 | 熱源+非常用発電があれば運転可 | 電力がないと停止 |
| 資格者の要否 | 不要(真空運転のため) | 機種により必要 |
| 初期コスト | やや高め | 比較的安い |
| ランニングコスト | 電気料金削減効果が大きい | 電力料金が主な負担 |
吸収式の大きなメリットは、電気をほとんど使わないため、電力契約容量を大幅に削減できる点です。夏場のピーク電力を抑えられるため、電気の基本料金の節約にもつながります。
一方、電気式のヒートポンプは初期コストが比較的抑えられ、小〜中規模の施設では導入しやすいという利点があります。施設の規模や用途に応じた使い分けが重要です。
3. 北海道の企業が吸収式冷温水機を導入するメリット
① 寒冷地でも暖房能力が落ちにくい
電気式のヒートポンプは、外気温が下がると暖房効率が低下する課題があります。近年は寒冷地向けの高性能機種も登場していますが、極寒時の能力ダウンは避けられません。
吸収式冷温水機の場合、暖房時はガスの燃焼で直接温水をつくるため、外気温の影響をほとんど受けません。マイナス20℃を下回る北海道の厳冬期でも、安定した暖房能力を発揮できます。
② 一台で冷暖房に対応し設備をコンパクトに
従来、冷房用の冷凍機と暖房用のボイラーを別々に設置する施設も少なくありませんでした。吸収式冷温水機は一台で冷水と温水の両方を供給できるため、設備スペースの削減が可能です。
ユニット型であれば屋上にも設置でき、貴重な機械室スペースを他の用途に活用できます。札幌市内のオフィスビルや商業施設など、敷地に制約がある建物でも導入しやすいでしょう。
③ 電力ピークカットで電気料金を削減
北海道の大規模施設では、夏の冷房と冬の暖房で電力使用量が大きくなりがちです。吸収式冷温水機は主にガスで運転するため、空調にかかる消費電力を大幅に抑えられます。
契約電力を下げることで電気の基本料金が削減できるほか、北海道ガスではガス空調向けの料金メニューも用意されています。
④ フロンを使わないノンフロン空調
吸収式冷温水機は冷媒に「水」を使用するため、オゾン層を破壊するフロンを一切使いません。フロン排出抑制法で義務化されている定期点検も、冷媒が水であるため対象外となります。
環境経営やSDGsへの取り組みを進める北海道の企業にとって、CO2削減とノンフロンを両立できる空調設備は大きな強みになるでしょう。
⑤ 停電時のBCP対策としても有効
北海道では2018年の北海道胆振東部地震で大規模停電(ブラックアウト)を経験しました。電気式空調は停電時にすべて停止しますが、吸収式冷温水機は非常用発電設備と組み合わせることで、停電時にも空調を継続できる可能性があります。
病院や高齢者施設、ホテルなど、空調の停止が人命や事業継続に直結する施設では、BCP(事業継続計画)の観点からも有効な選択肢です。
4. 北海道での活用シーンと導入事例
① 病院・福祉施設
病院では24時間365日の空調運転が求められます。入院患者の療養環境を守るためには、冷暖房の安定供給が欠かせません。
北海道ガスでは、病院や老人保健施設向けにガス吸収冷温水機を提案しています。消費電力が少ないガス空調を採用すれば、電気容量に余裕が生まれ、高度な医療機器やOA機器の導入も容易になります。冷温水の同時供給にも対応するタイプがあり、手術室は冷房、病棟は暖房といった運用も可能です。
② ホテル・宿泊施設
北海道はインバウンド需要やスキーリゾート需要の高まりから、ホテルの建設・リニューアルが活発です。北海道ガスは札幌市内のホテルにもガス吸収冷温水機やGHP(ガスヒートポンプ)を提案しています。
ホテルでは客室ごとの温度管理が求められるため、吸収冷温水機を利用した個別空調・個別計量にも対応可能です。テナントビルでも同様の運用ができます。
③ オフィスビル・商業施設
大規模なオフィスビルや商業施設では、ビル全体の空調を一括で管理するセントラル空調が一般的です。吸収式冷温水機は大容量の冷温水を効率よく供給でき、ビル空調の熱源機として広く採用されてきた実績があります。
④ 工場・生産施設
食品工場や精密機器工場では、温度・湿度の厳格な管理が必要です。吸収式冷温水機は工場の生産プロセスから出る廃熱(温排水や蒸気)を熱源として利用することもでき、工場全体のエネルギー効率を高めることが可能になります。
ガスコージェネレーション(ガスで発電し、同時に廃熱を回収するシステム)と吸収式冷温水機を組み合わせると、発電時の廃熱を冷暖房に有効活用できます。自家発電による電力コスト削減と、廃熱利用による空調の省エネを同時に実現する高効率なシステムです。
5. 吸収式冷温水機の基本スペック
吸収式冷温水機にはいくつかの種類があります。主要なタイプを整理しました。
| 正式名称 | 吸収冷温水機(吸収式冷温水発生器) |
| 別名 | ナチュラルチラー |
| 冷媒 | 水(ノンフロン) |
| 吸収液 | 臭化リチウム水溶液 |
| 主な熱源 | 都市ガス・LPガス・灯油・蒸気・廃熱など |
| 冷房能力(代表的な範囲) | 約280kW〜3,500kW(80RT〜1,000RT) |
| 運転に必要な資格 | 不要(機器内部が真空のため圧力容器に該当しない) |
| 主な採用施設 | オフィスビル、病院、ホテル、工場、学校、駅など |
なお「直焚式二重効用」が現在の主流タイプです。ガスの火で直接加熱し、2段階で熱を利用することで高い効率を実現しています。さらに効率を高めた「三重効用」タイプも登場しています。
6. 導入前に知っておきたい注意点
① 設置スペースの確保
吸収式冷温水機は比較的大型の設備です。屋上や機械室にある程度のスペースが必要になります。ただし、一台で冷暖房を兼用できるため、冷凍機とボイラーを別々に設置する場合と比べると、トータルの設置面積はコンパクトにまとまるケースも多いでしょう。
② 定期的な保守管理が必要
吸収式冷温水機は内部を真空状態に保つ必要があるため、定期的なメンテナンスが欠かせません。吸収液の補充や濃度管理、冷却水の水質管理、燃焼系統の点検などが主な項目です。
ただし、メーカーや販売会社による保守契約を締結すれば、遠隔監視サービスなども利用可能です。適切な管理を行えば、経年による性能劣化はほとんど防げるとされています。
吸収式冷温水機は冷房運転時に冷却塔(クーリングタワー)を使用します。北海道の冬季は暖房運転に切り替わり冷却塔は使用しないため、凍結防止のために冷却塔の水を抜いておく必要があります。冷暖切替時の運用手順を事前に確認しておきましょう。
③ 初期コストは長期運用で回収
吸収式冷温水機は電気式と比べて初期投資がやや高くなる傾向があります。しかし、電力契約容量の削減やガス空調料金の適用によるランニングコスト削減で、長期的には投資を回収できる可能性があります。省エネ補助金の活用も検討するとよいでしょう。
7. 吸収式冷温水機は北海道の大型施設に適した空調システム
吸収式冷温水機は、50年以上の歴史をもつ業務用空調の定番技術です。フロンを使わず水を冷媒とする環境性能、一台で冷暖房を兼用できる利便性、電力消費を大幅に抑えるコストメリットなど、多くの利点を備えています。
特に、暖房需要が大きい北海道の大規模施設にとっては、外気温に左右されず安定した暖房を供給でき、停電時のBCP対策にもなる頼もしい空調システムといえるでしょう。
空調設備の新設やリニューアルを検討される際は、吸収式冷温水機を選択肢のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。
北海道で吸収式冷温水機の導入を検討する際は、以下の点を確認しましょう。現在の空調設備の種類と老朽化状況の把握、電力契約容量とガス料金メニューの比較試算、冬季の冷却塔凍結対策の確認、省エネ補助金の活用可否、そして保守契約の内容と費用の確認が重要です。北海道ガス株式会社などの地元ガス会社に相談すれば、現地調査から見積もりまで対応してもらえます。
記事情報
公開日:2026年3月27日
参照資料:北海道ガス株式会社「ガス吸収冷温水機」、川重冷熱工業株式会社「吸収冷温水機/冷凍機の仕組み」、一般社団法人 日本冷凍空調工業会「吸収式冷凍機」
※本記事は上記資料に基づいて作成しています。最新情報は各メーカー・ガス会社の公式サイトをご確認ください。

