北海道で事業を営む中小企業にとって、電気代・灯油代といったエネルギーコストは経営を圧迫する大きな要因です。そのため、太陽光発電や蓄電池、高効率給湯器などの再エネ・省エネ設備への投資を検討する企業が増えています。
そうした設備投資を後押しする国の制度として注目されているのが、環境省の「地域脱炭素推進交付金」です。ただし、この交付金は国から企業に直接交付されるものではなく、採択された自治体を経由して事業者に補助が行われる仕組みになっています。つまり、自社が立地する市町村が採択されているかどうかで、使える補助金が大きく変わってくるということです。
本コラムでは、北海道地方環境事務所が公表した最新情報をもとに、北海道内で地域脱炭素推進交付金を活用して補助事業を実施している自治体の一覧と、その対象設備を整理して解説します。
この記事でわかること
● 地域脱炭素推進交付金の基本的な仕組みと、「脱炭素先行地域」「重点対策加速化事業」の違い
● 北海道内で補助事業を実施している自治体(10市町)の一覧
● 各自治体が補助対象としている設備(太陽光・蓄電池・高効率給湯器など)の違い
● 北海道の中小企業が活用する際のポイントと注意点
1. 地域脱炭素推進交付金とは?北海道の事業者が知っておきたい基礎知識
① 制度の概要
「地域脱炭素推進交付金」は、正式には「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」と呼ばれる環境省の制度です。2050年カーボンニュートラルや2030年度の温室効果ガス削減目標の達成に向けて、脱炭素事業に意欲的に取り組む地方公共団体を複数年度にわたり継続的に支援する仕組みとして創設されました。
特徴的なのは、国から地方自治体に交付金が渡り、自治体が事業者や住民に対して補助を行う「間接補助」の構造になっている点です。したがって、企業が設備投資でこの制度を活用したい場合は、自社の事業所が立地する自治体の補助制度を確認する必要があります。
図:地域脱炭素推進交付金のお金の流れ(間接補助のスキーム)
② 「脱炭素先行地域」と「重点対策加速化事業」の違い
地域脱炭素推進交付金には、いくつかの事業メニューがありますが、自治体の補助事業として広く活用されている代表的な2つの枠組みが「脱炭素先行地域」と「重点対策加速化事業」です。北海道地方環境事務所の公表資料では、この2つに採択された道内自治体の情報がまとめられています。
| 脱炭素先行地域 | 地域特性に応じた先行的・モデル的な脱炭素化に取り組む地域。全国から選定された地域で、民生部門の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロなどを目指す。北海道内では上士幌町が採択されている。 |
| 重点対策加速化事業 | 全国津々浦々で取り組むことが望ましい「重点対策」(自家消費型太陽光、蓄電池、省エネ機器等)を加速的に実施する自治体を支援する枠組み。北海道内では9市町が採択されている。 |
北海道は冬季の暖房需要が大きく、光熱費が経営コストに占める割合が高い地域です。高効率給湯器や断熱改修、太陽光発電+蓄電池などへの投資は、ランニングコスト削減の効果が他地域より大きく出やすい傾向があります。自社立地の自治体が採択されていれば、国・自治体の補助を活用して投資回収期間を短縮できる可能性があります。
2. 北海道内で補助事業を実施している自治体一覧
北海道地方環境事務所の最新公表資料によると、地域脱炭素推進交付金を活用して間接補助を実施している北海道内の自治体は、道央・十勝・オホーツク・上川の4地区にまたがる10市町です。以下、地区ごとに対象と設備を整理します。
補助対象者や対象設備の具体的な要件、補助金額、申請方法、公募時期は自治体ごとに大きく異なります。必ず各自治体の公式ページで最新情報をご確認ください。本コラムは2026年4月時点で北海道地方環境事務所が公表している情報に基づきます。
① 道央地区(札幌市・当別町・ニセコ町・苫小牧市・登別市)
| 自治体 | 事業区分 | 補助対象 | 対象設備 |
|---|---|---|---|
| 札幌市 | 重点対策加速化事業 | 事業者 | 太陽光発電設備(PPA・リース含む)、蓄電池(PPA・リース含む) |
| 当別町 | 重点対策加速化事業 | 個人/事業者 | 太陽光発電設備、蓄電池、ZEH、ZEH+、熱利用設備 |
| ニセコ町 | 重点対策加速化事業 | 個人/事業者 | 自家消費型太陽光、蓄電池、EMS、高効率空調、高効率給湯器、ZEH+、EV(カーシェア) |
| 苫小牧市(個人向け) | 重点対策加速化事業 | 個人 | 太陽光発電設備、蓄電池、ZEH、ZEH+、HEMS、エコキュート、給電装置 |
| 苫小牧市(事業者向け) | 重点対策加速化事業 | 事業者 | 太陽光発電設備、蓄電池 |
| 登別市 | 重点対策加速化事業 | 個人 | 太陽光発電+蓄電池、蓄電池、高効率空調、高効率給湯器 |
| 登別市 | 重点対策加速化事業 | 事業者 | 太陽光発電設備、蓄電池、充放電設備 |
② 十勝地区(上士幌町・鹿追町・士幌町)
| 自治体 | 事業区分 | 補助対象 | 対象設備 |
|---|---|---|---|
| 上士幌町 | 脱炭素先行地域 | 個人/事業者 | 太陽光発電設備、蓄電池、充放電設備 |
| 鹿追町 | 重点対策加速化事業 | 個人 | 太陽光、蓄電池、充放電設備、EMS、高効率給湯器、断熱改修、太陽熱利用設備 |
| 鹿追町 | 重点対策加速化事業 | 事業者 | 太陽光、蓄電池、充放電設備、EMS、高効率給湯器、断熱改修 |
| 士幌町 | 重点対策加速化事業 | 個人/事業者 | 太陽光発電設備、蓄電池、EMS、高効率給湯器 |
③ オホーツク地区(滝上町)
| 自治体 | 事業区分 | 補助対象 | 対象設備 |
|---|---|---|---|
| 滝上町 | 重点対策加速化事業 | 個人 | 太陽光発電設備、蓄電池、EMS、高効率給湯器 |
| 滝上町 | 重点対策加速化事業 | 事業者 | 太陽光発電設備、高効率給湯器 |
④ 上川地区(美瑛町)
| 自治体 | 事業区分 | 補助対象 | 対象設備 |
|---|---|---|---|
| 美瑛町 | 重点対策加速化事業 | 個人 | 太陽光発電設備、蓄電池 |
| 美瑛町 | 重点対策加速化事業 | 事業者 | バイオマス熱(木質燃料ストーブ) |
3. 対象設備の傾向|自治体によってカバー範囲が大きく異なる
上記一覧を見ていただくとわかるとおり、自治体によって補助の対象設備には明確な違いがあります。以下のグラフは、10市町のうち各設備を補助対象としている自治体が何件あるかを示したものです(個人・事業者を区別せず、自治体単位でカウント)。
図:北海道内で補助対象となっている設備の自治体カバレッジ
上記のとおり、太陽光発電と蓄電池はいずれも10市町すべてで補助対象となっています(ただし札幌市は事業者向けのみ、美瑛町事業者向けはバイオマス熱のみ、のように個人・事業者の区別はあります)。一方、高効率給湯器・EMS・断熱改修・ZEH+などは自治体によって対象可否が分かれるため、「自社で導入したい設備が補助対象になっているか」を最初に確認することが重要です。
事業者向けの補助対象になっているかどうかは特に重要です。例えば苫小牧市や登別市のように「個人向け」と「事業者向け」で制度が分かれているケース、札幌市のように事業者に特化した制度(太陽光+蓄電池のみ)を用意しているケース、美瑛町のように事業者向けはバイオマス熱に特化しているケースなど、地域特性が色濃く反映されています。
4. 北海道の企業が活用する際の実務ステップ
採択自治体の補助金を活用して設備投資を行う場合、一般的に以下のような流れになります。公募時期や予算枠には限りがあるため、早めの情報収集が鍵です。
まず、自社の事業所が上記10市町に該当するかを確認します。該当しない場合でも、今後採択される可能性があるため、環境省・自治体の最新情報を継続ウォッチする価値があります。
自治体公式ページで、導入予定設備が補助対象か、補助率・上限額、工事期間、対象事業者の要件(中小企業かどうか、業種制限の有無など)を確認します。
自治体の補助事業は通常、年度内に公募期間が限定されます。予算上限に達し次第受付終了となるケースも多いため、公募開始時期を事前に把握し、早期申請できる体制を整えます。
施工業者から見積を取得し、自治体が指定する申請書類(事業計画書・設備仕様書・CO2削減効果試算など)を準備します。自治体によって必要書類が異なります。
申請後、交付決定が出てから着工するのが原則です。交付決定前の契約・着工は補助対象外となる自治体がほとんどなので注意が必要です。工事完了後は実績報告を提出し、補助金が交付されます。
交付決定前の契約・発注・着工は補助対象外になるのが原則です。「見積を取る」段階と「契約する」段階は明確に分け、契約は必ず交付決定通知を受けてから行うようにしてください。また、他の国庫補助金(経済産業省の省エネ補助金、環境省の脱炭素関連補助金など)との併給制限がある場合があります。他制度との併用可否も申請前に必ず確認してください。
5. 他の国・北海道の補助制度との関係
北海道の事業者が設備投資に活用できる補助制度は、地域脱炭素推進交付金を活用した自治体補助のほかにも、経済産業省の省エネ補助金(SII執行)、環境省の工場・事業場脱炭素化関連補助金、北海道独自の補助制度など複数あります。
どの制度が自社に最適かは、設備の種類・投資規模・事業者区分・立地自治体によって変わります。複数の制度を比較検討したうえで、最も補助率・補助額が有利な制度を選ぶか、あるいは設備を分割して複数制度を活用する戦略も考えられます(ただし併給制限に要注意)。
自治体補助は「補助率は高めだが予算規模は小さく、公募期間が短い」傾向があります。一方、国の大型補助金(経産省のSII執行事業や環境省の脱炭素関連事業など)は「予算規模は大きいが要件が厳しく、事業計画の精度が問われる」傾向があります。自社の投資時期・投資額・リスク許容度に応じて使い分けるのがセオリーです。
6. まとめ|自社立地自治体の補助制度を最優先でチェック
地域脱炭素推進交付金は、国が地方自治体を通じて北海道の事業者に間接補助を行うための大型の支援スキームです。現時点で北海道内では10市町が採択されており、太陽光発電・蓄電池は10市町すべてで補助対象(ただし個人・事業者の区分あり)ですが、その他の設備は自治体ごとにカバー範囲が大きく異なります。
自社の脱炭素化・省エネ投資を検討する際は、まず自社立地自治体が採択されているか、導入したい設備が補助対象に含まれているかを確認することが出発点になります。
地域脱炭素推進交付金は2030年度の温室効果ガス削減目標に向けた時限的な制度であり、採択自治体の補助事業も各年度の予算内で実施されています。予算枠に達し次第、その年度の受付は終了するため、導入を検討している設備があれば、早めに自治体の公募情報を確認し、見積・事業計画の準備を進めておくことが重要です。自治体によっては、次年度以降の制度継続が未定のケースもあるため、「使えるときに使う」判断が企業の投資回収を左右します。
記事情報
公開日:2026年4月17日
参照資料:北海道地方環境事務所「地域脱炭素推進交付金を活用し再エネ設備等の補助を行う自治体一覧」
※本記事は上記資料(2026年4月時点)に基づいて作成しています。各自治体の補助制度の最新状況・詳細要件は北海道地方環境事務所の公式ページおよび各自治体の公式情報をご確認ください。

