灯油・A重油・LPG・都市ガス・電気の熱量単価とは、それぞれの燃料単価を「1メガジュール(MJ)の熱をつくるのにいくらかかるか」に揃えた指標です。北海道の工場やホテル、病院で燃料転換を検討するとき、円/L・円/kg・円/m³・円/kWhのまま比べても答えは出ません。単位が違うものを並べているためです。
北海道は暖房・給湯・蒸気にかかるエネルギー費が経営コストを大きく左右する地域です。A重油ボイラーを灯油に替えるべきか、LPGに転換すべきか、ヒートポンプで電化すべきか。判断を分けるのは設備の新旧ではなく、「有効熱1MJあたりの円」という共通のものさしです。
この記事では、公的な発熱量の数値を使って、誰でも自社の請求書から熱量単価を計算できる4ステップの手順を解説します。あわせて、機器効率を入れると順位が逆転する仕組みと、「燃料単価がいくらになったら逆転するか」を求める損益分岐の計算式まで整理します。
この記事でわかること
✅ 熱量単価(円/MJ)の考え方と、単位を揃えないと比較できない理由
✅ 灯油・A重油・LPG・都市ガス・電気の発熱量早見表(公的数値)
✅ 自社の請求書から熱量単価を出す4ステップの計算手順
✅ 機器効率・COPを入れると順位が逆転する仕組み
✅ 「燃料単価がいくらになったら逆転するか」を求める損益分岐の式
1. 熱量単価とは?「円/MJ」に揃える考え方
① 一言でいうと
熱量単価とは、燃料の価格を「1MJの熱をつくるのにかかる円」に換算した数値です。単位を揃えることで、リットル・キログラム・立方メートル・キロワットアワーという異なる売られ方をしている燃料を、同じ土俵で比較できます。
② なぜ単価のままでは比べられないのか
灯油1リットルとLPG1キログラムでは、そもそも含まれている熱量が違います。灯油は1リットルあたり36.7MJ、LPGは1キログラムあたり50.8MJです。単価だけを見て「灯油100円、LPG300円だから灯油が3倍安い」と判断するのは誤りになります。
正しくは、価格を発熱量で割ります。さらに、燃料は機器を通して熱に変わるため、機器の効率で割るところまでやって初めて実務的な比較になります。
図1:熱量単価を求める2段階の換算
2. 発熱量・換算係数の早見表(公的な数値)
比較の土台になるのが単位発熱量です。以下は省エネ法や温対法の報告で用いられる標準的な数値です。自社の実測値がある場合はそちらを優先します。
| エネルギー | 単位 | 単位発熱量(高位) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 灯油 | 1L | 36.7 MJ | 36.7 GJ/kL |
| 軽油 | 1L | 37.7 MJ | — |
| A重油 | 1L | 39.1 MJ | 39.1 GJ/kL |
| B・C重油 | 1L | 41.9 MJ | — |
| LPG(液化石油ガス) | 1kg | 50.8 MJ | プロパン7:ブタン3の混合を想定した値 |
| 都市ガス13A | 1m³ | 45 MJ | 事業者ごと。北海道ガスの13Aは45MJ/m³ |
| 電気 | 1kWh | 3.6 MJ | 3.60 GJ/千kWh |
表1:燃料別の単位発熱量(資源エネルギー庁 省エネ法 定期報告書記入要領、環境省 算定方法・排出係数一覧、北海道ガス公表資料に基づく)
50.8GJ/tはプロパン70%・ブタン30%の混合を想定した省エネ法の値です。日本LPガス協会の資料では、プロパン100%は51.24GJ/t、ブタン100%は49.7GJ/tとされています。差は3%程度のため、概算比較では50.8GJ/tで問題ありません。
① LPGが「m³」で請求されている場合の換算
LPGはkg建てとm³建ての両方が使われます。省エネ法の定期報告書記入要領では、m³表示の場合はまず供給事業者に「産気率」(m³からトンへの換算係数)を確認することとされています。確認が難しい場合には、次の換算係数が示されています。
| LPGの種類 | m³→トンの換算係数 | 1m³あたりの重量(換算値) |
|---|---|---|
| プロパン | 1/502 トン | 約1.99kg |
| ブタン | 1/355 トン | 約2.82kg |
| プロパン・ブタンの混合 | 1/458 トン | 約2.18kg |
表2:LPGのm³→トン換算係数(資源エネルギー庁 定期報告書記入要領の注記による)
計算は「m³ → トン(kg) → 熱量」の2段階で行います。例えばプロパン100m³なら、100 ÷ 502 ≒ 0.199トン、0.199 × 50.8 ≒ 10.1GJ です。
LPGの請求がm³なのかkgなのかを取り違えると、熱量単価は2倍以上ずれます。種類(プロパンかブタンか)でも1m³あたりの重量は約1.4倍違います。kg表記の伝票があればkgで計算するのが最も確実です。
② 高位発熱量と低位発熱量の混在に注意
日本の公的な換算表は高位発熱量(総発熱量)です。一方、ボイラーメーカーのカタログ効率には低位発熱量基準(LHV基準)で表示されているものがあります。低位発熱量は高位より6〜10%程度小さいため、基準がずれると効率の比較が成立しません。
カタログに「HHV基準」「LHV基準」の記載がない場合は、メーカーに確認します。確認できない場合は、比較対象すべてを同じ前提(高位基準)で揃え、その旨を試算の注記に残しておくと、後から検証できます。
3. 熱量単価の計算手順は?4ステップで求める
手順は次の4つです。必要なのは直近12か月分の請求書と、機器のカタログ(または銘板)だけです。
請求書の金額を数量で割り、税抜の実単価を求めます。基本料金・配送料・容器賃借料が別建ての場合も、年間総額を年間数量で割った「総額ベースの単価」で計算します。
表1の単位発熱量で割り、円/MJにします。ここで得られるのは「買った燃料が持っている熱」の単価です。
ボイラーや給湯器なら熱効率、ヒートポンプならCOPで割ります。これで「実際に使える熱」の単価になります。
年間の使用量から有効熱量(GJ)を求め、各方式の円/MJを掛ければ、年間コストの比較になります。
4. 計算例:灯油・A重油・LPG・都市ガス・電気を並べる
以下は計算方法を示すための試算例です。単価は仮定値であり、実際の単価は契約・地域・数量によって大きく変わります。必ず自社の請求書の数値に置き換えてください。
| エネルギー | 仮定単価 | 単位発熱量 | 仮定効率 | 有効熱量単価 |
|---|---|---|---|---|
| 電気(ヒートポンプ) | 25円/kWh | 3.6 MJ/kWh | COP 3.0 | 2.31円/MJ |
| 灯油 | 100円/L | 36.7 MJ/L | 85% | 3.21円/MJ |
| A重油 | 110円/L | 39.1 MJ/L | 85% | 3.31円/MJ |
| 都市ガス13A | 200円/m³ | 45.0 MJ/m³ | 85% | 5.23円/MJ |
| 電気(電気ヒーター) | 25円/kWh | 3.6 MJ/kWh | 100% | 6.94円/MJ |
| LPG | 300円/kg | 50.8 MJ/kg | 85% | 6.95円/MJ |
表3:有効熱量単価の試算例(※単価はすべて仮定値。計算手順を示す目的の試算です)
図2:有効熱量単価の比較(試算例)
① 年間コストに置き換える
仮に年間の有効熱量が1,000GJ(=1,000,000MJ)の施設だとすると、年間の燃料費は次のようになります。
| エネルギー | 有効熱量単価 | 年間1,000GJの燃料費 |
|---|---|---|
| 電気(ヒートポンプ) | 2.31円/MJ | 約231万円 |
| 灯油 | 3.21円/MJ | 約321万円 |
| A重油 | 3.31円/MJ | 約331万円 |
| 都市ガス13A | 5.23円/MJ | 約523万円 |
| LPG | 6.95円/MJ | 約695万円 |
表4:年間有効熱量1,000GJの場合の燃料費(※表3の仮定単価による試算例)
5. 機器効率で結果が逆転する仕組み
燃料単価だけを見れば電気は割高です。しかしヒートポンプは投入電力の2〜4倍の熱を運ぶため、効率で割った段階で順位が入れ替わります。逆に電気ヒーターは効率が100%を超えないため、燃料と比べて不利になりやすい方式です。
① 機器効率の目安
| 機器 | 効率・COPの目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 灯油・重油ボイラー(従来型) | おおむね80〜88% | 経年劣化・空気比の調整状況で変動 |
| 潜熱回収型ボイラー・給湯器 | おおむね90〜95% | 排気の潜熱を回収する方式 |
| 電気ヒーター・電気ボイラー | ほぼ100% | 投入電力を超える熱は出ません |
| ヒートポンプ(空気熱源) | COP 2〜4程度 | 外気温が下がるほど低下します |
表5:機器効率の目安(※業界で一般に言われる範囲であり、公的な統一値ではありません。メーカー・機種・運転条件により異なるため、実機のカタログ値を優先してください)
カタログのCOPはJISで定められた試験条件(暖房は外気7℃など)での値です。北海道の暖房期は外気温が氷点下になる時間が長く、実際の期間平均COPはカタログ値を下回るのが通常です。年間コストの試算では、期間平均を想定した保守的な数値を使うか、機種ごとの低外気温特性データを確認してください。
② 効率を変えると順位はこう動く
先ほどの試算例で、ヒートポンプのCOPを3.0から2.0に落とすと、有効熱量単価は3.47円/MJになります。灯油の3.21円/MJを上回り、順位が逆転します。燃料転換の判断は、単価よりも効率の前提で決まるといえます。
札幌・旭川・帯広など内陸部では、真冬の朝に外気温が氷点下10℃を下回ります。冷房主体の地域向けに作られた試算をそのまま使うと、ヒートポンプの実力を過大評価しがちです。月別の外気温と月別の熱需要を掛け合わせ、暖房期の加重平均で評価するのが実務的な方法になります。
6. 損益分岐単価:いくらになったら逆転する?
燃料価格は変動します。そこで有効なのが「相手の単価がいくらになったら逆転するか」を先に求めておく方法です。式は次のとおりです。
灯油100円/L・ボイラー効率85%(=3.21円/MJ)を基準にすると、分岐点は次のようになります。
| ヒートポンプのCOP | 電気の分岐単価 | 判断 |
|---|---|---|
| COP 2.0 | 約23.1円/kWh | これより電気が安ければ電化有利 |
| COP 2.5 | 約28.9円/kWh | 同上 |
| COP 3.0 | 約34.6円/kWh | 同上 |
表6:灯油100円/L・効率85%を基準にした電気の分岐単価(※試算例)
① 燃料どうしの分岐点も同じ考え方で出せます
LPG300円/kg・効率85%(=6.95円/MJ)と灯油を比べる場合、灯油の分岐単価は6.95 × 36.7 × 0.85 ≒ 217円/Lです。灯油が217円/Lを超えない限り、この前提ではLPGより灯油が安いという整理になります。
燃料価格が動くたびに再計算するのは大変です。あらかじめ分岐単価を出しておけば、請求書の単価を見るだけで「まだ逆転していない」「そろそろ検討時期だ」と判断できます。年1回の見直しでも十分に機能します。
7. 燃料転換の試算でよくある失敗5つ
① 一次エネルギー換算係数で経済比較をしてしまう
省エネ法の定期報告では、2023年4月施行の改正省エネ法から、電気を1kWhあたり8.64MJ(全電源平均)として一次エネルギー換算します。これは国全体のエネルギー消費を統一的に評価するための係数であり、電気代の計算に使う数値ではありません。経済比較では、機器に入る熱量である3.6MJ/kWhを使います。なお建築物省エネ法の省エネ計算では、引き続き9.76MJ/kWhが使われており、制度ごとに係数が異なります。換算係数の詳細は一次エネルギー換算係数8.64MJ/kWhとは?で解説しています。
② 電気の基本料金・契約電力を計算に入れていない
電化すると電力使用量が増え、契約電力(デマンド)が上がることがあります。高圧の場合、基本料金は契約電力に単価を掛けて算出されるため、従量分だけの比較では実態とずれます。受変電設備の増強が必要になるケースもあります。
③ 燃料側の固定費を無視している
LPGの容器賃借料、灯油タンクの点検・維持費、A重油の加温にかかる電力など、燃料には従量単価以外のコストが伴います。年間総額を年間数量で割った「総額ベースの単価」で比較すると、こうした差が自動的に織り込まれます。
④ 高位発熱量と低位発熱量が混ざっている
比較する機器のうち1つだけが低位基準の効率だと、その機器が実際より有利に見えます。効率の基準は必ず揃えます。
⑤ 更新工事費と補助金を含めずに結論を出している
ランニングコストで有利でも、初期投資が回収できなければ投資判断としては成立しません。燃料転換は設備更新を伴うため、工事費・撤去費・補助金の有無まで含めて回収年数で評価します。燃料転換にかかる工事の考え方は燃料転換工事のページにまとめています。
8. CO2で比較する場合はどうする?
補助金の申請やSBT認証、取引先からの排出量開示要請では、コストだけでなくCO2排出量の比較も求められます。考え方はコストと同じで、使用量 × 排出係数で算出します。
| 燃料 | CO2排出係数の目安 |
|---|---|
| 灯油 | 約2.49 t-CO2/kL |
| A重油 | 約2.71 t-CO2/kL |
| LPG | 約3.00 t-CO2/t |
| 電気 | 電気事業者ごとに異なる(毎年更新) |
表7:燃料別のCO2排出係数(環境省「算定・報告・公表制度」算定方法・排出係数一覧の単位発熱量・炭素排出係数から算出。最新値は必ず公式資料で確認してください)
電気のCO2排出係数は電力会社・料金メニューごとに公表され、毎年更新されます。数年前の係数を使うと結論が変わる場合があるため、算定時点の最新値を環境省の公表資料で確認してください。コストでは有利でも、CO2では逆の結論になることもあります。
9. 北海道の事業者にとってのポイント
■ 熱需要が大きいほど、単価差が金額差に直結します
北海道の施設は暖房・給湯・蒸気の熱需要が大きく、有効熱量が年間1,000GJを超える施設は珍しくありません。1円/MJの差でも年間100万円の差になります。まずは自社の年間有効熱量を把握することが出発点です。
■ 灯油とA重油は「単価差」より「維持費差」で決まることがあります
表3の試算例では灯油とA重油の有効熱量単価はほぼ同水準でした。実務では、A重油の加温・撤去・タンク維持にかかる手間やコストが判断材料になります。単価が拮抗しているときこそ、総額ベースで比較してください。
■ 冬季ピークと契約電力をセットで検討します
電化を進めると冬季の最大デマンドが上がります。高圧(契約電力500kW未満)の実量制では、当月を含む過去12か月の最大デマンドがその月の契約電力になり、基本料金に反映され続けます。ランニングの試算だけでなく、契約電力への影響を必ず確認します。
■ 熱源によっては停電時の運転可否も判断材料になります
胆振東部地震の全域停電を経験した北海道では、熱源のBCPも判断材料です。ガスエンジンで駆動するGHPや、ガス焚きの吸収式冷温水機のように、方式によって停電時の挙動が異なります。コストの近い選択肢が並んだときは、この観点が決め手になることがあります。
10. よくある質問(FAQ)
A. 燃料単価を単位発熱量で割り、さらに機器効率で割ります。例えば灯油100円/L・発熱量36.7MJ/L・ボイラー効率85%なら、100 ÷ 36.7 ÷ 0.85 ≒ 3.21円/MJです。
A. A重油のほうが大きく、灯油が1Lあたり36.7MJ、A重油が39.1MJです。ただし単価もA重油のほうが安い傾向があるため、熱量単価で比べないと有利不利は判断できません。
A. 経済比較では3.6MJ/kWhを使います。8.64MJ/kWhは省エネ法の定期報告で用いる一次エネルギー換算係数で、電気代の計算には使いません。
A. まず供給事業者に産気率(m³からトンへの換算係数)を確認します。確認が難しい場合は、定期報告書記入要領の注記にあるプロパン1m³=1/502トンなどの係数でトンに換算し、50.8GJ/tを掛けて熱量を求めます。kg表記の伝票があればkgで計算するのが確実です。
A. ランニングコストの比較だけでは判断できません。設備の更新工事費・撤去費・補助金の有無を含めた回収年数と、停電時の運転可否などのリスク面をあわせて評価する必要があります。
11. まとめ
燃料転換の判断は、燃料単価ではなく「有効熱1MJあたりの円」で行います。要点を整理します。
- 円/L・円/kg・円/m³・円/kWhのままでは比較できません。単位発熱量で割って円/MJに揃えます。
- さらに機器効率(ヒートポンプはCOP)で割ると、実務で使える有効熱量単価になります。
- 灯油36.7MJ/L、A重油39.1MJ/L、LPG50.8MJ/kg、電気3.6MJ/kWhが基本の換算値です。
- 経済比較に一次エネルギー換算係数(8.64MJ/kWh)は使いません。
- 分岐単価を先に求めておけば、燃料価格が動いても請求書を見るだけで判断できます。
- 最終判断は、工事費・補助金・契約電力への影響・停電時の運転可否まで含めて行います。
記事情報
公開日:2026年8月24日(数値の情報確認日:2026年8月24日)
参照資料:
・資源エネルギー庁「省エネ法 定期報告書・中長期計画書 記入要領」(単位発熱量・LPG換算係数) 省エネポータルサイト
・環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」算定方法・排出係数一覧 公式サイト
・北海道ガス「省エネ法等に関わる報告書類作成における参考数値について」(都市ガス13A:45MJ/m³) 公式サイト
※本記事の試算はすべて計算手順を示すための例であり、単価・機器効率は仮定値です。実際の判断は自社の請求書と機器のカタログ値に基づいて行ってください。
