「事務所のエアコンが古くなったが、交換費用を何年もかけて減価償却するのは面倒」「店舗の給湯器を更新したいが、今期の経費で一括処理できないだろうか」。こうした悩みを抱えている北海道の事業者は少なくないはずです。
2026年4月の税制改正で、中小企業向けの「少額減価償却資産の特例」の対象額が30万円未満から40万円未満に引き上げられました。事務所や店舗で使うエアコン、給湯器、PC、複合機といった設備を全額経費にできる範囲が広がった形です。
本コラムでは、この改正の概要と、北海道で事業を営む中小企業が設備投資にどう活かせるかを解説します。
この記事でわかること
✅ 少額減価償却資産の特例が「30万円→40万円」に拡大した背景と改正内容
✅ 事務所・店舗のエアコンや給湯器の入れ替えにどう影響するか
✅ 業務用設備は対象になるのか?価格帯と判定のポイント
✅ 従業員数の要件変更など、実務で見落としやすい注意点
1. 少額減価償却資産の特例とは?
正式名称は「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」です。青色申告をしている中小企業者等が、一定金額未満の減価償却資産を取得して事業に使い始めた場合に、取得価額の全額をその年の経費として一括計上できる制度になります。
通常、エアコンや給湯器などの設備は「減価償却資産」に該当し、法定耐用年数に応じて数年間にわたって費用化しなければなりません。たとえば業務用エアコン(器具備品)の法定耐用年数は6年です。この特例を使えば、減価償却を行わずに購入年度で全額を経費にでき、当期の利益を圧縮して法人税等の負担を軽減できます。
① 特例の基本的な適用要件
| 対象者 | 青色申告を行う中小企業者等(資本金1億円以下など)・青色申告の個人事業主 |
| 対象資産 | 取得価額が一定金額未満の減価償却資産 |
| 年間の上限 | 取得価額の合計で年間300万円まで |
| 手続き | 損金経理+確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」の添付 |
北海道は冬季の暖房費・給湯費が全国トップクラスです。エアコン(暖房兼用機)や給湯器の性能が光熱費に直結するにもかかわらず、設備更新には数十万円の投資が必要で、先送りされがちです。この特例は、更新費用を購入年に全額経費処理することでキャッシュフローの負担を抑え、設備投資を後押しする制度です。
2. 2026年4月からの改正内容 ― 何がどう変わる?
令和8年度(2026年度)税制改正大綱に基づき、この特例に平成15年の制度創設以来初となる大幅な見直しが行われました。改正法案は2026年2月20日に閣議決定・国会提出されており、2026年4月1日の施行が見込まれています。
① 最大の変更点:対象額が10万円引き上げ
全額経費にできる資産の取得価額の上限が、30万円未満から40万円未満に引き上げられます。つまり、これまで30万円を1円でも超えると原則どおり減価償却が必要だった設備が、40万円未満であれば購入年に全額損金算入できるようになります。
30万円未満
30万円以上は
耐用年数に応じて減価償却
40万円未満
40万円未満なら
購入年に全額経費OK
この見直しの背景には、制度創設から20年以上にわたって金額基準が据え置かれてきた一方、物価上昇や機器の高性能化によって設備の価格が上がり、特例の恩恵を受けにくくなっていた実態があります。
② 改正内容の全体像
| 改正項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 対象取得価額 | 30万円未満 | 40万円未満 |
| 従業員数の要件 | 常時使用500人以下 | 常時使用400人以下 |
| 年間の上限額 | 300万円 | 300万円(変更なし) |
| 適用期限 | 2026年3月31日 | 2029年3月31日(3年延長) |
金額基準が広がった一方で、対象となる法人の従業員数の上限が500人から400人以下に引き下げられました。ここでいう「常時使用する従業員」にはパート・アルバイトも含まれ、役員は除きます。北海道の多くの中小企業には影響がない水準ですが、従業員数が多い事業者は念のため確認しておきましょう。
3. 事務所・店舗のエアコンや給湯器 ― 実際に特例は使える?
10万円の枠拡大は、実際の設備投資にどう影響するのでしょうか。事務所や店舗で使われる代表的な設備について、価格帯と特例の適用可否を整理します。
① 業務用エアコン ― 小型機なら対象になる可能性
業務用エアコンは馬力・設置タイプによって価格帯が大きく異なります。天井カセット形4方向の5馬力以上は工事費込みで50万~100万円超が相場のため、本特例の対象にはなりにくいのが実情です。
一方で、小規模な事務所や個室向けの壁掛形(2~3馬力)であれば、本体価格は10万~30万円程度に収まるケースが多くあります。また、家庭用ルームエアコンを事務所に導入する場合も、寒冷地仕様のハイスペック機であっても本体価格は20万~35万円程度です。こうした機器は改正後の40万円基準で十分に特例の対象となります。
② 給湯器 ― エコジョーズ・エコキュートも対象圏内
事務所や店舗で使われる給湯器も、本体価格が20万~40万円程度に収まる製品が多い分野です。特に高効率ガス給湯器「エコジョーズ」(排熱を回収してガス消費を抑える給湯器)は、本体価格20万~40万円が中心価格帯です。これまで30万円を超えて特例対象外になっていた機種も、新基準では全額経費にできる可能性が広がりました。
③ エアコン・給湯器以外にも対象設備は多い
もちろん、特例の対象はエアコンや給湯器だけではありません。30万~40万円の価格帯で事業に使う設備であれば幅広く適用できます。
| 設備カテゴリ | 具体例 | 価格帯の目安 |
|---|---|---|
| 空調 | 壁掛形エアコン(2~3馬力)、寒冷地仕様ルームエアコン | 15万~38万円程度 |
| 給湯 | エコジョーズ、エコキュート、小型業務用給湯器 | 20万~38万円程度 |
| IT機器 | 高性能PC、業務用ノートPC、タブレット端末 | 25万~38万円程度 |
| OA機器 | 複合機(コピー機)、プリンター | 20万~38万円程度 |
| 照明 | LED照明器具(一括導入時の1系統単位) | 数万~30万円程度 |
| 什器・備品 | 業務用冷蔵庫、陳列棚、家具類 | 15万~38万円程度 |
※価格帯は製品の性能・メーカー・仕様により異なります。工事費は含まない本体価格の目安です。
図:少額減価償却資産の特例 対象範囲の変化
天井カセット形の大馬力エアコンなど、取得価額が40万円以上になる業務用設備は本特例の対象外です。その場合は「中小企業経営強化税制」(即時償却または税額控除)や、省エネ設備向けの補助金制度の活用が有効です。設備の規模に応じて最適な制度を選びましょう。
4. 取得価額の判定 ― 税込?税抜?工事費は含む?
特例を使えるかどうかは「取得価額が40万円未満かどうか」で決まります。この判定には、いくつかの実務上のポイントがあります。
① 税込経理か税抜経理かで金額が変わる
取得価額の判定は、自社が採用している消費税の経理方式によって異なります。
税抜経理の場合は、税抜価格で判定します。たとえば税込43万円の給湯器でも、税抜では約39万円。新基準の40万円未満に収まるため、特例の対象になりえます。
一方、税込経理の場合は消費税込みの金額で判定します。同じ機器でも税込43万円であれば対象外です。税抜経理を採用している企業のほうが、特例の適用範囲が実質的に広がるといえます。
② 工事費の取り扱い
エアコンや給湯器の入れ替え費用は「機器本体+工事費」で構成されます。本体購入と設置工事を別々に契約・請求している場合、本体の取得価額のみで判定できるケースがあります。
ただし、機器と工事を一体として取得したと認められる場合は合算して判定されます。契約の分け方や請求書の記載方法で結論が変わりうるため、個別の判断は顧問税理士にご確認ください。
③ 「修繕費」で全額経費にできるケースとの違い
既存のエアコンや給湯器を同等品に交換するだけであれば、「修繕費」として全額経費に計上できる場合もあります。この場合は取得価額の金額基準に関係なく処理できます。
しかし、性能が大幅に向上する機器への入れ替えは「資本的支出」と判断され、原則として資産計上が必要です。ただし、エアコン・給湯器・カーテン・絨毯などの什器備品の交換については、実質的に新たな資産を取得したと認められる場合には、この少額減価償却資産の特例を適用できるとされています。
同等スペックの機器への入れ替え、定期的な部品交換、故障修理などは「修繕費」として全額経費にできる可能性が高い処理です。一方、より高性能な機器への入れ替え、規模の拡張、新たな機能の付加は「資本的支出」に該当しやすくなります。判断が難しいケースでは、修繕費と少額減価償却資産の特例のどちらが有利かを比較検討しましょう。
5. 実務で見落としやすい注意点
① 取得日・事業供用日で適用される基準が変わる
改正後の40万円基準が適用されるのは、2026年4月1日以降に取得し事業の用に供した資産です。2026年3月31日以前に取得した資産は、旧基準(30万円未満)が適用されます。
3月決算法人の場合、令和7年度の事業年度(2025年4月~2026年3月)には旧基準が適用され、翌事業年度(2026年4月~)から新基準が適用されます。同一事業年度内で新旧基準が混在することはありません。
設備の購入・納品が3月から4月にかけて行われる場合、取得日と事業供用日がどちらの期間に該当するかで適用基準が変わります。契約書・納品書・検収書の日付を確認し、どちらのルールが適用されるか事前に整理しておきましょう。
② 年間300万円の枠管理
1件あたりの対象金額が拡大した分、年間300万円の上限に達しやすくなります。たとえば、35万円のエアコンを9台まとめて購入すると合計315万円。300万円を超える分は通常の減価償却が必要です。
複数台の設備入れ替えを計画する場合は、事業年度をまたいで購入時期を分散させることで、枠を有効に使えます。月次で「累計取得価額」を管理する運用が有効です。
③ 償却資産税の申告義務は残る
この特例で全額経費処理した資産であっても、市町村への償却資産税(固定資産税)の申告義務は引き続き残ります。即時に経費にしたから申告不要、とはなりませんのでご注意ください。
④ 明細書の添付を忘れずに
損金経理を行うだけでは不十分です。確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」を添付する必要があります。申告書の提出までがセットの手続きです。
6. 40万円以上の設備には別の税制優遇を
大型の業務用エアコン(天井カセット4方向・5馬力以上など)や大型給湯システムは、工事費込みで50万円以上になるのが一般的です。こうした設備は本特例の対象外ですが、別の税制優遇を組み合わせることで税負担を軽減できます。
① 中小企業経営強化税制
経営力向上計画の認定を受けた中小企業が、一定の要件を満たす設備を取得した場合に、即時償却または税額控除(最大10%)を選択できる制度です。空調設備や高効率給湯器も対象に含まれ、適用期限は2027年3月31日までとされています。
なお、今回の税制改正で、経営強化税制における工具・器具備品の取得価額要件も「30万円以上」から「40万円以上」に引き上げられています。少額減価償却資産の特例(40万円未満)と合わせると、隙間なく税制優遇を受けられる設計になっています。
② 省エネ補助金との併用
省エネ性能の高い設備への更新には、国や自治体の補助金を活用できる場合があります。補助金で初期費用を抑えたうえで、残りの取得価額に税制優遇を適用すれば、投資負担をさらに圧縮できます。
図:設備投資の金額帯に応じた税制優遇の使い分け
北海道では暖房・給湯設備の更新が光熱費の削減に直結します。今回の改正を受けて、以下の3点を確認しておくことをおすすめします。
1. 入れ替え予定の設備の取得価額が40万円未満に収まるか(税込・税抜の経理方式も含めて確認)
2. 年間300万円の枠内で、今期どこまで設備更新を進められるか
3. 40万円以上の大型設備は、経営強化税制や補助金でカバーできないか
具体的な税務判断は顧問税理士にご相談ください。制度を正しく活用することで、老朽設備の更新と節税を同時に実現できます。
7. まとめ ― 設備更新のハードルが下がる改正
2026年4月からの税制改正により、少額減価償却資産の特例は20年以上ぶりに大きく見直されました。全額経費にできる基準が30万円未満から40万円未満に広がったことで、事務所・店舗のエアコンや給湯器、PC、複合機など、日常的に使う設備の即時経費化がしやすくなっています。
大型の業務用空調など40万円以上の設備は本特例の対象外ですが、経営強化税制や補助金といった別の制度を活用することで税負担を軽減できます。設備の規模に応じて最適な制度を選ぶことがポイントです。
特に北海道の中小企業にとって、暖房・給湯設備は経営コストに直結する重要な資産です。今回の改正を機に、老朽化した設備の更新計画を見直してみてはいかがでしょうか。
| 改正のポイント | 対象取得価額を30万円未満→40万円未満に引き上げ |
| 施行時期 | 2026年4月1日(同日以後に取得し事業供用した資産が対象) |
| 適用期限 | 2029年3月31日まで(3年延長) |
| 年間上限 | 300万円(変更なし) |
| 従業員数要件 | 常時使用400人以下(500人→400人に変更) |
| 注意点 | 償却資産税の申告義務は残る。確定申告への明細書添付が必要。大型設備は経営強化税制等の活用を検討 |
記事情報
公開日:2026年4月6日
参照資料:令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日 与党公表)、財務省「令和8年度税制改正の大綱」、改正法案(令和8年2月20日 閣議決定・国会提出)
※本記事は上記資料に基づいて作成しています。2026年4月時点で改正法案は国会審議を経ていますが、最終的な法律の内容が本記事と異なる可能性があります。具体的な税務判断にあたっては、顧問税理士にご相談ください。最新情報は財務省 令和8年度税制改正の大綱をご確認ください。

