北海道の建物で使われる不凍液(ブライン)とは、冷温水・暖房・融雪などの配管内を循環し、熱を運びながら凍結や金属腐食を抑えるための熱媒体です。
不凍液は、年数が経過しただけで必ず濃度が下がるわけではありません。ただし、配管からの漏えい、安全弁等からの排出、修理時の排液などが発生し、その不足分を水だけで補給すると濃度が低下します。また、濃度が保たれていても、防食添加剤の消耗や液の劣化が進んでいる場合があります。
そのため、不凍液の状態は「何年使ったか」だけでは判断できません。凍結温度、pH、外観、使用中の製品に応じた防食性能を確認し、補充・濃度調整・全量交換のどれが必要かを判断します。この記事では、札幌をはじめとする北海道のビル・工場・福祉施設の設備管理担当者に向けて、その判断の手順を整理します。
不凍液管理の結論
・交換年数は一律ではなく、製品・機器メーカーの指定と測定結果で判断します
・安全弁の頻繁な作動や補給水の増加は、膨張タンクや漏えいの点検サインです
・水の補給自体が悪いのではなく、原因を直さず水だけを足し続けることが問題です
・凍結温度、pH、外観、製品指定の防食性能を暖房シーズン前に確認します
この記事でわかること
✅ 不凍液(ブライン)の役割と、エチレングリコール系・プロピレングリコール系の考え方
✅ 濃度が下がる本当の原因と、先に確認すべき6つの点検項目
✅ 目標とする凍結温度をどう決めるか(設計外気温と余裕温度)
✅ 凍結が起きやすい建物内の5か所
✅ 凍結温度・pH・防食性能の確認方法と、原液補充量の概算例
✅ 長期休館・停電時の判断とBCPの備え
1. 不凍液(ブライン)とは?北海道でどの系統に使うのか
① 一言でいうと「熱を運び、凍らせず、錆びさせない液」
不凍液(ブライン)とは、グリコールなどを水に混ぜ、防食添加剤を加えた熱媒体です。ファンコイル、温水パネル、床暖房、冷温水配管、ロードヒーティングなどの中を循環し、熱を運びます。
寒冷地であっても、すべての冷温水系統に不凍液が必要とは限りません。使用するのは凍結のおそれがある系統です。具体的には、屋外配管やロードヒーティング、非暖房区画を通る配管、長時間停止する可能性のある系統などが該当します。
② 不凍液が担う役割は?
不凍液の役割は、①熱の搬送 ②凍結防止 ③金属腐食の抑制の3つに整理できます。それぞれ確認する指標が異なるため、ひとつの数値だけを見ても状態は判断できません。
| 一般的な呼び方 | 不凍液/循環液/ブライン/クーラント |
| 主な成分 | エチレングリコールまたはプロピレングリコール、水、防食添加剤等 |
| 主な用途 | 冷温水設備、温水暖房、床暖房、ロードヒーティング、冷凍冷蔵設備等 |
| 主な役割 | ①熱の搬送 ②凍結防止 ③金属腐食の抑制 |
| 主な確認項目 | 凍結温度、pH、外観、製品ごとに指定された防食性能等 |
| 交換時期 | 循環液・熱源機メーカーの指定を優先し、測定結果と使用状況から判断 |
なお、藻やカビの発生を抑える防腐性能については、該当する添加剤を含む製品に限った性能です。すべての不凍液に備わっているわけではないため、使用中の製品仕様をご確認ください。
③ エチレングリコール系とプロピレングリコール系の違いは?
不凍液は主成分によって大きく2種類に分かれます。用途で機械的に決まるものではなく、安全性への配慮と製品仕様で選定します。
| 項目 | エチレングリコール系(EG) | プロピレングリコール系(PG) |
|---|---|---|
| 主な特徴 | 一般の冷温水・暖房・融雪設備などで広く使用されます | EGより安全性に配慮した用途で選ばれることがあります |
| 用途の例 | 空調、温水暖房、ロードヒーティング、一般産業設備等 | 食品工場、食品貯蔵施設など、漏えい時の影響をより慎重に考える設備等 |
| 選定上の注意 | SDSを確認し、漏えい・廃液・誤飲防止を含めて管理します | PGであっても、すべてが食品設備向けとは限りません。用途を明記した製品を選びます |
| 共通事項 | 既設液と異なる製品を混合せず、変更する場合はメーカー指定に従って排液・洗浄します | |
2. なぜ不凍液の濃度は下がる?漏えい・異常排出・補給を確認
不凍液の濃度が下がる主な原因は、系統から失われた液を、水だけで補給することです。ただし、正常な密閉式冷温水系統では、安全弁が日常的に作動して循環液を排出することを前提としません。
安全弁からの排出や補給水の増加が繰り返されている場合は、単に不凍液を追加するのではなく、次の原因を確認する必要があります。
□ 配管・バルブ・機器から漏えいしていないか
□ 膨張タンクの容量が不足していないか
□ 膨張タンクの封入圧力が低下していないか
□ 補給水圧力が適正か
□ 安全弁の設定圧力や作動状態に問題がないか
□ 修理・エア抜き・排水後に、水だけを補給していないか
原因を直さず水だけを補給すると、グリコール濃度が低下するだけでなく、新たな酸素や水質成分が系統内に入り、腐食リスクが高まる場合があります。補給量が増えたときは、濃度調整より先に、液が失われている原因を調べることが重要です。
図1:不凍液の濃度が低下していく流れ
① グリコール濃度と凍結温度の関係は?
濃度が下がると凍結温度は上がります。参考として、あるエチレングリコール系希釈タイプ製品では、混合比と凍結温度が次のように示されています。
図2:特定のエチレングリコール系製品における濃度と凍結温度の一例。
濃度の重量%・容量%の別や凍結温度は製品ごとに異なります。
実際の設定には使用中の製品の濃度表を使用してください。
同じ混合比でも、エチレングリコール系とプロピレングリコール系では凍結温度が異なります。他社製品の数値を自社設備に当てはめないことが前提になります。
② 目標とする凍結温度はどう決めるのか?
目標とする凍結温度は、設計外気温、配管が設置されている場所、停止時の温度条件、保温状態などを確認し、循環液メーカーが指定する余裕温度を加えて決めます。過去最低気温だけを基準に必要以上に濃くすると、粘度の上昇によってポンプ負荷や流量に影響することがあります。
メーカーによっては「使用温度より10℃低い凍結温度」といった余裕の取り方を案内しています。ただし、この値をすべての製品に一律で適用するのではなく、使用している製品の仕様を優先してください。
③ 濃すぎても損をする理由
「濃いほど安全」ではありません。管理基準値を上回る濃度にすると循環液の粘度が高くなり、ポンプや熱源機の負荷が増えます。搬送動力が増え、電気代にも跳ね返ります。
逆に管理基準値を下回ると、凍結リスクが上がるだけでなく、防食性能も設計どおりに発揮されません。濃すぎず薄すぎない、製品の管理範囲に収めることが正解です。
3. 凍結が起きやすいのはどこか?北海道の施設で危ない5か所
凍結は建物全体で同時に起きるわけではありません。局所的に温度が下がる場所から始まります。以下の5か所は特に注意が必要です。
図3:凍結が起きやすい5か所(建物断面イメージ)
とくに見落とされやすいのが③の空室・閉鎖区画です。テナント退去後や休業中のフロアは暖房が止まり、循環も細くなります。ここに凍結温度の上がった液が滞留すると、外気温が下がった夜に凍結する可能性があります。
樹脂配管なら凍結しても大丈夫なのか?
架橋ポリエチレン管などの樹脂管は、金属管とは凍結時の変形特性が異なります。しかし、配管本体だけでなく、継手、バルブ、熱交換器、ポンプなどが損傷する可能性があるため、「樹脂管なら凍結しても問題ない」とは判断できません。
凍結が疑われる場合は、急激に加熱したり運転を再開したりせず、漏えい、継手の変形、機器損傷などを設備業者に確認してもらうことが必要です。
暴風雪や地震による停電では、循環ポンプが止まります。循環が止まると、外気に近い配管から局所的に温度が下がり始めます。北海道の施設では「暖房が止まる」ことよりも、「循環が止まる」ことのほうが設備被害としては深刻になり得ます。
どれくらい持ちこたえられるかは、凍結温度だけで決まるものではありません。保温の状態、風の当たり方、配管径、外気温、建物内の温度など複数の条件で変わります。凍結温度に余裕を持たせることは、そのうちのひとつの備えです。
4. 更新前に見るべき3点|凍結温度・pH・防食性能
不凍液の状態は、測定に基づいて判断するのが原則です。年数や感覚ではなく、次の3点を確認します。
屈折計やブラインテスターを使用します。ただし、製品濃度まで正確に読み取れるかは、測定器の目盛と循環液の組み合わせによって異なります。製品名、EG・PGの別、測定器の対応範囲を確認してください。
pHは試験紙や計測器で確認できます。管理範囲は製品ごとに異なるため、必ず使用中の製品の仕様書と照合してください。
液の色、濁り、沈殿物、泡立ちを目視で確認します。防食性能については、製品ごとに指定された確認方法(専用試薬やメーカー分析)に従います。
① 凍結温度が上がっていたらどうするか
測定した凍結温度が目標値を満たしていない場合は、原液タイプの循環液を追加して濃度を調整します。ただしその前に、なぜ濃度が下がったのかを確認してください。漏えいが続いている状態で濃度だけ戻しても、同じことが繰り返されます。
系統の保有水量がわかっている場合、必要な原液量はおおよそ次の式で見積もれます。
必要原液量 = 保有水量 ×(目標濃度 − 現在濃度)÷(原液濃度 − 目標濃度)
※試算例:保有水量2,000L、現在30%、目標40%、原液100%の場合
2,000 ×(40 − 30)÷(100 − 40)= 約333L
※あくまで概算です。実際は重量%と容量%の別、液の密度、既存液との相性によって必要量が変わります。発注前に製品の濃度表とメーカー指定をご確認ください。
② pHが管理範囲を外れていたらどうするか
pHの管理範囲は製品ごとに異なります。pHの変化には、防食添加剤の消耗、酸化や熱による劣化、空気・異物の混入、不適切な補給など複数の原因が考えられます。
管理範囲を外れている場合は、pHだけを調整して済ませるのではなく、凍結温度、液の色、濁り、沈殿物、配管の腐食状況なども確認し、循環液メーカーまたは設備業者の判断に従ってください。
③ 防食性能だけが低下している場合
凍結温度やpHが管理範囲内でも、防食性能が低下している場合があります。対応する補充剤が用意されている製品では、メーカーの分析結果や指定量に基づいて添加する方法があります。ただし、異なるメーカーの添加剤を任意に混ぜることは避けてください。
□ 使用中の製品名とEG・PGの別を把握しているか
□ 製品の管理範囲(凍結温度・pH等)を手元で確認できるか
□ 前回の交換・補充の記録が残っているか
□ 測定した凍結温度が、設計条件とメーカー指定の余裕を満たしているか
□ pHが製品の管理範囲内にあるか
□ 液に濁り・沈殿物・泡立ちがないか
□ ストレーナーの詰まりが以前より早く再発していないか
□ 補給水の量が例年より増えていないか(=漏えい・膨張タンクの点検サイン)
□ 空室・閉鎖区画の系統も点検対象に入っているか
5. 長期休館・停電時はどうする?BCPとしての備え
年末年始の休館、改修工事による長期停止、暴風雪による停電。いずれも循環が止まるという点で共通したリスクを持ちます。
密閉式の冷温水系統では、液を抜くと配管内に空気が入り、内面の腐食が進みやすくなります。また復旧時にエア抜きが不十分だと、循環不良や異音の原因になります。抜くか残すかは系統の方式と停止期間によって判断が変わるため、設備の仕様を確認したうえで決めてください。
現実的な備えとしては、次の3点を平時に決めておくことが有効です。
| 備え | 具体的な内容 |
|---|---|
| 判断基準を決める | 「停止が何日を超えたら何をするか」を数字で決めておきます |
| 手順書を残す | 系統図、バルブの位置、水抜き・エア抜きの手順を紙で残します |
| シーズン前に測定する | 凍結温度とpHを確認し、管理範囲内で冬に入ります |
6. 設備更新のタイミングで、まとめて確認すべきこと
熱源機やファンコイルの更新は、不凍液を全量入れ替える数少ない機会です。機器だけを新しくして古い液をそのまま戻すと、新しい熱交換器に旧系統の腐食生成物や沈殿物を流し込むことになります。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 系統洗浄 | 旧液の排出とフラッシングを工事範囲に含めるか |
| 希釈水の指定 | 製品が指定する水を使うか(上水道水や軟水を指定する製品があります) |
| 目標凍結温度 | 設計外気温と配管位置から、メーカー指定の余裕を加えて設定するか |
| 膨張タンク・安全弁 | 容量・封入圧力は適正か、頻繁な作動が起きていないか |
| 点検の仕組み化 | シーズン前点検を年間保全計画に組み込むか |
関連して、屋外系統についてはロードヒーティングの仕組みとランニングコストもあわせてご確認ください。冷温水を熱媒とする熱源方式については吸収式冷温水機の仕組み、系統内の熱交換器についてはプレート式熱交換器の解説で扱っています。
7. 北海道の事業者にとってのポイント
■ 拠点ごとに「必要な凍結温度」が違います
札幌と旭川、帯広、内陸の町では、設計外気温も配管の設置条件も異なります。全社共通の管理値を決めるのではなく、拠点ごとに設計条件と配管位置を確認し、メーカー指定の余裕温度を加えて目標値を設定してください。複数拠点を持つ企業ほど、この差が事故の分かれ目になります。
■ 点検は「暖房シーズン前」に固定します
不凍液の点検は、真冬に問題が出てから動くと選択肢が限られます。9〜10月のうちに凍結温度・pH・外観を確認し、必要なら補充・調整・交換まで終えておくのが理想です。冬季は工事業者の手配自体が混み合います。
■ 補給水の量は「異常の発見器」になります
補給水の量が例年より増えている場合、漏えいや膨張タンクの不具合が起きている可能性があります。濃度低下の原因を追うことが、そのまま設備不具合の早期発見につながります。月ごとの補給量を記録に残す習慣が有効です。
■ 空室・閉鎖区画を点検リストから外さないでください
テナント退去後のフロア、使っていない旧棟、冬季休業する施設は、暖房も循環も細くなります。北海道の凍結事故は、こうした「誰も見ていない区画」で起きがちです。使っていない区画こそ、系統として生きているかを確認してください。
8. よくある質問(FAQ)
A. 一律の交換年数はありません。循環液と熱源機のメーカーが指定する交換時期を優先し、凍結温度、pH、液の色・濁り、補給履歴などを確認して判断します。暖房シーズン前に点検し、管理範囲を外れている場合は、濃度調整・分析・全量交換を検討してください。
A. 使用中の製品によっては、希釈水として上水道水が指定されています。ただし、減った原因を確認せず水だけを繰り返し補給すると、不凍液の濃度が低下します。まず漏えい、安全弁、膨張タンク、補給水圧などを点検し、その後、メーカー指定の水または循環液を使って濃度を調整してください。
A. 対応する屈折計やブラインテスターを使えば、凍結温度を確認できます。ただし、製品濃度まで正確に測れるかは、使用中の循環液と測定器の目盛によって異なります。製品名とEG・PGの別を確認し、対応する測定器を選んでください。
A. 濃度そのものより、系統内に腐食生成物や沈殿物が堆積することで熱交換効率や循環量が低下し、結果として燃料・電力の消費が増える要因になります。逆に濃度が高すぎる場合は粘度が上がり、ポンプや熱源機の負荷が増加します。
A. 架橋ポリエチレン管などの樹脂管は、金属管とは凍結時の変形特性が異なります。しかし、配管本体だけでなく、継手、バルブ、熱交換器、ポンプなどが損傷する可能性があるため、「樹脂管なら凍結しても問題ない」とは判断できません。凍結が疑われる場合は、急激に加熱したり運転を再開したりせず、設備業者に確認してもらってください。
9. まとめ
不凍液(ブライン)の管理は、地味ですが設備寿命とBCPの両方に直結する保全項目です。要点は以下の5つです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 役割は3つ | 熱の搬送・凍結防止・金属腐食の抑制。確認する指標がそれぞれ異なります |
| 濃度低下の原因 | 漏えい・異常排出などで失った分を、原因を直さず水だけで補給すること |
| 先に原因を調べる | 補給量が増えたら、濃度調整より先に漏えい・膨張タンク・安全弁を点検します |
| 目標値の決め方 | 設計外気温と配管位置に、メーカー指定の余裕温度を加えて設定します |
| 測ってから決める | 凍結温度・pH・外観と防食性能を確認し、補充か調整か全量交換かを判断します |
設備更新は、系統の液を入れ替えられる数少ない機会です。機器の選定と同じ熱量で、中を流れる液の計画も立てておくことをおすすめします。
記事情報
公開日:2026年7月27日
参照資料:
・株式会社MORESCO「ナイブライン」製品情報(希釈水の指定、凍結温度の設定、日常管理値)
・森永エンジニアリング株式会社「膨張タンクと安全弁に関する技術情報」
・株式会社ゴードー 不凍液製品の濃度・凍結温度データ
・ベストパーツ株式会社「循環液(不凍液)の分析方法」「ブラインテスター」解説記事
・各社循環液製品の公開仕様(主成分、混合比と凍結温度、用途)
※本記事は上記資料に基づいて作成しています。凍結温度・pH・濃度等の管理基準値は製品ごとに異なるため、実際の運用にあたっては使用中の製品の仕様書および熱源機メーカーの指定を必ずご確認ください。
※株式会社totokaの公式サイトは https://www.totoka.jp/ をご確認ください。
