北海道の介護施設でエアコンを「新設」する場合、既存設備を入れ替える「更新」とはまったく別の検討が必要です。冷房のない居室に初めて空調を入れる工事では、使える補助制度・受電容量・入居者が生活したままの施工段取りという3つの壁が同時に立ちはだかります。
結論を先に申し上げると、道内の介護施設が冷房を新設する場合、まず確認すべきは北海道が実施している介護施設等への冷房設備設置補助です。経済産業省・SIIの省エネ補助金は、設備区分と補助率の面で居室のエアコン新設には合致しにくい構造になっています。
本コラムでは、施設長・事務長・施設管理担当者が意思決定できるレベルで、冷房新設プロジェクトの論点を整理します。「エアコンを何台入れるか」の前に決めておくべきことに焦点を当てます。
この記事でわかること
✅ 北海道の介護施設向け冷房設備設置補助の対象・対象外・補助額の考え方
✅ SIIの省エネ補助金が居室のエアコン新設に合致しにくい3つの理由
✅ 全居室に冷房を入れたときに契約電力と基本料金がどう動くか(試算例)
✅ 入居者が生活したまま施工するための5ステップの段取り
✅ 北海道の介護施設でよくある失敗5選と、着工前チェックリスト
1. なぜ今、北海道の介護施設で「冷房の新設」が課題なのか?
気候の変化に、建物の設備構成が追いついていないためです。北海道の福祉施設は暖房を前提に設計されており、冷房は「あれば良いもの」として省略されてきました。その前提が、ここ数年で崩れています。
① 札幌の夏はすでに「涼しい」とは言えません
札幌市では2023年8月23日に36.3度を記録し、観測史上最高を更新しました。札幌市の統計資料によれば、同年の真夏日(最高気温30度以上)は年間30日、夏日(同25度以上)は年間91日に達しています。
北海道の建物は高気密・高断熱で設計されています。断熱材は外部からの熱の侵入も抑えますが、日射遮蔽や換気・冷房が不足すると、室内で発生・蓄積した熱が逃げにくくなる場合があります。「窓を開ければしのげる」という運用が成立しない日が増えています。
② リスクは入居者と職員の両方にかかります
国の熱中症対策実行計画では、熱中症死亡者の8割以上を65歳以上が占めるとされています。また、屋内で亡くなった方の約9割は、エアコンを使用していなかったか、エアコンを所有していなかったとの調査結果があります。
見落とされがちなのが職員側です。2025年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行され、一定の暑熱環境下で作業を行わせる事業者には、熱中症の疑いがある労働者を把握・報告する体制の整備と周知、作業からの離脱・身体冷却・医療機関への搬送等の手順の作成と周知が義務付けられました。違反した場合は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
2025年6月の改正で義務化されたのは、体制整備・手順作成・周知です。建物へのエアコン設置そのものが一律に義務付けられたわけではありません。ただし施設内の暑熱環境を把握し、必要な対策を講じることは求められます。冷房の新設は、この「必要な対策」を検討した結果として選択される手段と位置づけてください。
さらに2026年4月1日から、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境改善等が事業者の努力義務となりました。60歳以上の職員が多い介護現場では、この2つが同時にかかってきます。
本州の施設では冷房があるのが当然のため、この論点自体が発生しません。一方、北海道の施設は冷房のない状態を「地域性」として説明できた時代が長く続きました。しかし気象データが変わった以上、ご家族や監査に対して「なぜ居室に冷房がないのか」を説明する立場に置かれます。設備投資の議論に入る前に、この構図の変化を経営層で共有しておくことが出発点になります。
2. 北海道の介護施設向け「冷房設備設置補助」とは?
道内の介護施設が冷房を新設する場合、最初に確認すべき制度です。厚生労働省の介護保険事業費補助金のうち、北海道管内に所在する介護施設等への冷房設備の設置に特化して設けられた枠で、北海道および管内市町村が実施主体となります。
| 正式名称 | 令和8年度(令和7年度からの繰越分)介護保険事業費補助金(介護施設等経営改善・従事者処遇改善等緊急支援事業費) |
| 目的 | 近年の異常気象に伴う熱中症対策として、北海道管内に所在する介護施設等に冷房設備を設置する経費の一部を補助する |
| 事業内容 | 熱中症防止対策に資する壁掛けエアコン等の設置に要する費用の補助 |
| 実施主体 | 北海道および北海道管内の市町村 |
| 対象経費 | 需用費、役務費、委託料、使用料および賃借料(土地・建物に要する経費を除く)、備品購入費(備品設置に伴う工事請負費を含む) |
| 交付基準単価 | 1施設あたり2,000千円(200万円)の範囲内で厚生労働大臣が認めた額 |
| 公式ページ | 北海道 保健福祉部福祉局高齢者保健福祉課 |
対象経費には「備品購入費(備品設置に伴う工事請負費を含む)」と明記されています。機器代だけでなく設置工事費も対象になる点が、この制度の実務上の強みです。後述するSIIの設備単位型は設備費のみが対象で工事費は対象外のため、工事費比率が高くなる新設工事とは相性が異なります。
対象になる施設は?定員で申請ルートが分かれます
対象施設は定員規模で2つに区分され、それぞれ実施主体(=申請の窓口)が異なります。
| 区分 | 主な対象施設 | 実施主体 |
|---|---|---|
| 広域型施設等 (定員30人以上) | 特別養護老人ホームおよび併設の老人短期入所施設、老人短期入所施設、介護老人保健施設、介護医療院、養護老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス・A型・B型)、有料老人ホーム | 北海道 札幌市・旭川市・函館市 |
| 地域密着型サービスを伴う 事業所・小規模施設等 (定員29人以下) | 上記各施設の定員29人以下のもの、都市型軽費老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、小規模多機能型居宅介護事業所、看護小規模多機能型居宅介護事業所、生活支援ハウス | 管内市町村 |
グループホームや小規模多機能型居宅介護事業所も対象に含まれています。定員29人以下の施設は市町村が窓口となるため、振興局に問い合わせても案内が異なる場合があります。まず自施設がどちらの区分かを確認してください。
対象にならない事業は?
実施要綱では、次の3つが対象外として明記されています。ここが「新設」に軸足を置いた記事の核心です。
| 対象外とされる事業 | 意味するところ |
|---|---|
| 国が別途定める国庫負担金・補助金・交付金の対象となる事業 | 国の他の補助金と同一の事業では併用できません。SIIの省エネ補助金との重複申請は原則不可と考えてください |
| 施設整備を目的とする事業 (土地や既存建物の買収、土地の整地等を含む) | 建物側の改修とセットで大規模に組む計画には向きません |
| 既存施設の破損や老朽化に伴う改修・修繕を目的とする事業 | 既存エアコンの老朽更新・故障修理は対象外です。冷房がない施設への新設が想定された制度です |
補助額はいくら?「200万円がもらえる」わけではありません
ここを誤解したまま予算を組む施設が少なくありません。交付基準単価の200万円は計算の入口となる上限値であって、施設への支給額ではありません。
図:交付額が決まるまでの計算の流れ(交付要綱・実施要綱に基づく)
さらに、施設が事業者として実施する場合は間接補助事業にあたります。この場合、交付基本額に4分の3を乗じた額と、北海道または市町村が実際に補助した額とを比較して少ない方の額に補助率を乗じる、という多段階の計算になります。
上記の1/2・2/3は、いずれも国から北海道・市町村への補助率です。施設が最終的にいくら受け取れるかは、北海道または所在市町村がどう制度を組んでいるかによって変わります。「200万円が入る前提」で稟議を上げないでください。金額は必ず所管の振興局または市町村に確認してください。
申請の手続きと期限
手続きは、協議書の提出から始まります。協議書には1社からの見積書の添付が求められ、見積書の取得が難しい場合は見積業者から概算額を聞き取るなどして積算内訳書を作成します。
北海道の案内では、提出期限は各提出先が個別に設定するとされています。石狩振興局管内については提出期限が2026年4月10日とされ、すでに受付終了となっています。現在申請できるかどうかは、施設が所在する市町村を所管する(総合)振興局保健環境部社会福祉課、または市町村に直接ご確認ください。介護老人保健施設および介護医療院は、振興局の保健行政室企画総務課等が窓口となります。
北海道の案内では、協議書の提出にあたり「積雪等の関係で工事ができなくなることなども考慮し、令和9年3月5日までに事業完了が可能かどうかを検討したうえで提出すること」とされています。道内の実情を踏まえた注記であり、冬季に工事が止まる前提で工程を逆算する必要があります。また留意事項として、入札の実施や複数業者からの見積取得により適正価格で購入することが求められています。
3. SIIの省エネ補助金は使える?「更新」と「新設」の壁
経済産業省・SII(環境共創イニシアチブ)の「省エネ・非化石転換補助金」は、空調更新の定番制度です。しかし介護施設の居室にエアコンを新設するケースでは、3つの理由から合致しにくいのが実情です。
理由①:制度の基本設計が「更新」前提です
省エネ補助金は、改修前と改修後のエネルギー使用量を比較し、その差を省エネ量として評価します。冷房設備が存在しない場合、比較対象となる改修前の使用量がありません。むしろ電力使用量は増えるため、通常の枠では申請の土俵に乗りません。
図:省エネ補助金における「更新」と「新設」の扱いの違い
理由②:新設が対象になる枠はありますが、補助率は1/5です
2026年版では、設備単位型にGX設備単位型(メーカー強化枠・トップ性能枠)が新設されました。このうちトップ性能枠には新設事業の区分があり、新しい事業所等にトップ性能設備を新設する場合が対象になります。
ただし、更新事業と新設事業では補助率が大きく異なります。
| 申請枠 | 補助対象経費 | 補助率 | 上限額 |
|---|---|---|---|
| 設備単位型(従来枠) | 設備費 | 1/3以内 | 1億円/事業全体 |
| GX設備単位型(メーカー強化枠) | 設備費 | 1/3以内 | 3億円/事業全体 |
| GX設備単位型(トップ性能枠) 更新事業 | 設備費 | 1/2以内 | 3億円/事業全体 |
| GX設備単位型(トップ性能枠) 新設事業 | 設備費 | 1/5以内 | 3億円/事業全体 |
※ 補助率・上限額・要件は公募回ごとに変わります。申請前に必ず最新の公募要領をSII公式サイトでご確認ください。
理由③:対象となる高効率空調は、居室用の壁掛けエアコンではありません
ここが最も見落とされる点です。トップ性能枠で「高効率空調」として指定されているのは、高性能な空調本体に加え、クラウド上で高度なAI制御によって一層の省エネを実現する電気式パッケージエアコンです。
一般的な居室用の壁掛けルームエアコンを30台設置する計画に、この枠をそのまま当てはめることはできません。加えて、設備単位型は補助対象経費が設備費のみで工事費は対象外のため、工事費比率が高い新設工事とは構造的に相性が良くありません。
正しくは「トップ性能設備に該当する機種を導入する新設事業であれば、補助率1/5以内で対象になり得る」です。まず自施設の計画がトップ性能枠の設備区分に合致しているかを確認し、そのうえでSIIの指定設備一覧で型番を検索してください。設備区分が合っていなければ、型番検索まで進む意味がありません。
4. 制度の比較|どれを軸に検討すべきか
冷房新設に関連しうる制度を、対象範囲の違いで整理します。「使えそうに見えて、実は目的が違う」制度が多い領域です。
| 制度 | 所管 | 冷房新設との関係 |
|---|---|---|
| 介護保険事業費補助金 (介護施設等への冷房設備設置) | 厚生労働省/ 北海道・市町村 | 本命。冷房設備の新設が目的の制度で、壁掛けエアコン等の設置費用が対象。設置工事費も対象経費に含まれる。老朽更新・修繕は対象外 |
| 省エネ・非化石転換補助金 (設備単位型・トップ性能枠) | 経済産業省/SII | 新設事業は補助率1/5以内。対象はクラウドAI制御を備えた電気式パッケージエアコン等に限られ、設備費のみが対象(工事費は対象外) |
| エイジフレンドリー補助金 (熱中症対策コース) | 厚生労働省 | 補助率1/2・上限100万円。高年齢労働者の作業環境改善が目的で、入居者用居室に固定式壁掛けエアコンを整備するための制度ではない |
| 地域介護・福祉空間整備等 施設整備交付金 | 厚生労働省 | 防災・減災が目的。スプリンクラー、非常用自家発電、防災改修等が中心で、冷房設備そのものは基本的に対象外 |
熱中症対策コースの公式Q&Aでは、移動式で熱排気が可能なスポットクーラー等について条件付きで対象とする一方、気化式冷風機、水冷式エアコン、大容量スポットクーラー等は対象外としています。職員の作業環境改善として位置づける制度であり、居室の空調整備とは目的が異なります。制度の詳細はエイジフレンドリー補助金2026の解説コラムで扱っています。
冷房の新設は、補助金が取れなくても実施すべきかどうかで判断する性質の投資です。熱中症は人命に関わり、対応の遅れは施設のリスク管理そのものに直結します。補助金は「取れたら投資回収が早まるもの」と位置づけ、採否に左右されない計画を先に作ることをおすすめします。
5. 全居室に新設すると電気はどうなる?契約電力という落とし穴
補助金と並行して、着工前に必ず確認すべきなのが受電容量です。ここを後回しにすると、計画そのものが成立しないことがあります。
なぜ更新工事では起きにくい問題なのか
更新工事では、既存機と同等かそれ以下の消費電力の機器に入れ替わるのが一般的なため、契約電力は増加しにくくなります(能力増強や方式変更を伴う場合は増えることがあります)。一方の新設は、施設全体の電気負荷に「冷房」という新しい塊がまるごと追加されます。
試算例:30床規模の施設に全室冷房を入れた場合
居室30室に2.2kWクラスのルームエアコン、共用部(食堂・機能訓練室)に5馬力クラスの天井カセット形2台を新設したと仮定します。
| 設置場所 | 台数 | 冷房時の消費電力(目安) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 居室(2.2kWクラス) | 30台 | 約0.6kW/台 | 約18kW |
| 共用部(5馬力天カセ) | 2台 | 約4kW/台 | 約8kW |
| 増加する電力(同時使用率100%の場合) | 約26kW | ||
※ 試算例です。機種・年式・室内負荷により消費電力は変動します。実際には同時使用率を考慮した検討が必要です。
図:冷房新設時に最初に判断すべき受電容量の分岐
デマンド値は「最大12か月」効き続けます
北海道電力の高圧の標準約款では、契約電力500kW未満の場合、各月の契約電力は原則として「その月の最大需要電力」と「前11か月の最大需要電力」のうち高い方となります。つまり夏に高いデマンド値を記録すると、その月を含め最大12か月にわたって基本料金に影響します。契約電力500kW以上の場合は、設備内容や負荷率等をもとに電力会社との協議で決められます。
仮に基本料金の単価を2,000円/kW・月と置いた場合、デマンド値が26kW上がると次のようになります。
| 項目 | 金額(試算例) |
|---|---|
| デマンド増加分 | 26kW |
| 基本料金の月額増 | 26kW × 2,000円 = 52,000円 |
| 基本料金の年額増 | 約62万円 |
※ 基本料金単価を仮に2,000円/kW・月と置いた試算例です。実際の単価は契約種別・料金メニューにより異なり、力率割引も影響します。
デマンド料金の仕組み自体は全国共通ですが、冷房の運転期間が比較的短い北海道では、電力量料金の増加に対して年間の基本料金の増加が目立ちやすくなります。設備投資の稟議には、機器代・工事費に加えてこのランニングコストを織り込んでください。
デマンド値は原則として30分単位の平均需要電力で評価されます。そのため、階ごとに5〜10分ずらして起動しても、同じ30分の枠内で全台が高負荷運転すれば、契約電力を十分に抑えられないことがあります。時差起動は瞬間的な負荷集中を避ける効果はありますが、それだけに頼らず、デマンド監視装置で30分間の平均電力を見ながら、設定温度・運転台数・共用部設備の稼働時間を制御する必要があります。詳しくはデマンドコントロールの解説コラムをご覧ください。
6. 入居者が生活したまま工事する|段取りの5ステップ
介護施設の冷房新設が事務所ビルの工事と決定的に違うのは、入居者が24時間そこで生活しているという点です。工程表は工事の都合ではなく、生活の都合から逆算して組みます。
既存の暖房方式(温水パネル・FF式ストーブ等)、冷媒配管を通せるルート、室外機の設置スペース、受電設備の余力を確認します。図面が現況と合っていないことが多いため、必ず現物を見ます。
自施設の定員区分に応じて、振興局か市町村かを確認します。協議書には見積書の添付が求められるため、この段階で施工業者から正式見積を取得します。適正価格の確保が求められるため、複数業者からの見積取得が基本です。
「1日◯室・◯日で全館完了」の形にスケジュールを固めます。入居者の居室移動を伴う場合は、ケアプランや入浴日との調整が必要になるため、現場責任者だけでなく介護部門を計画段階から巻き込みます。
壁のコア抜きは粉塵と大きな騒音が出ます。養生範囲と作業可能時間帯(午睡時間を外す等)を書面で合意します。室外機は、屋根からの落雪範囲・堆雪スペース・除雪動線を確認し、必要に応じて防雪フードや高置架台を計画します。
引き渡し後、誰が温度設定を管理するかを決めます。入居者が自由に操作できる設定にするか、管理者側で上下限を固定するかで、運用コストと快適性のバランスが変わります。
補助金は原則として交付決定後に発注・契約したものが対象です。一方で、北海道の案内では積雪を考慮して令和9年3月5日までに事業完了が可能かどうかを検討したうえで協議書を提出するよう求められています。「交付決定を待つ期間」と「雪が降る前に終わらせる期限」の両方に挟まれるのが道内の冷房新設工事です。工程は必ず両端から逆算してください。
7. 機種はどう選ぶ?介護施設で失敗しない3つの判断軸
① 冷房専用にするか、冷暖房兼用にするか
本州であれば冷暖房兼用が当然の選択ですが、北海道の介護施設では話が変わります。すでに温水パネルやFF式ストーブなど、冬季に十分な能力を持つ暖房設備が入っている施設が多いためです。
この場合、暖房機能を持たない冷房専用機を選ぶことで、機器価格と設置スペースを抑えられる場合があります。暖房を兼用機に切り替えると、外気温が下がったときの能力低下や霜取り運転による室温変動という新しい問題を抱え込むことにもなります。
逆に、既存暖房が老朽化しており更新時期が近いのであれば、冷暖房兼用機で熱源を統合したほうが総額は下がります。寒冷地における暖房能力の考え方は寒冷地エアコンと普通のエアコンの違いで詳しく解説しています。
② 個別制御か、集中制御か
| 方式 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 個別制御 | 入居者の体感に合わせられる/導入コストが安い | 室温を職員が把握できない/設定が極端になりやすい |
| 集中制御 | 全居室の室温を一括監視できる/上下限を固定できる | 制御機器の追加コストが発生/個別の要望に応えにくい |
実務的には、上下限温度を管理者側で固定したうえで、その範囲内で入居者が操作できる中間的な設定に落ち着くケースが多く見られます。
③ 室内機のタイプと居室レイアウト
| タイプ | 介護施設での適性 |
|---|---|
| 壁掛形 | 居室に最も採用しやすい。ベッドに直接風が当たらない位置に設置できるかが判断基準 |
| 天井カセット形 | 食堂・機能訓練室など共用部向き。天井裏の懐(ふところ)寸法が足りるかを事前確認 |
| 床置形 | 天井に配管を通せない既存建物で有効。ただし居室の有効面積を圧迫し、車椅子動線に干渉しやすい |
高齢者は冷風が直接当たることを強く嫌います。カタログ上の能力が足りていても、気流が寝ている入居者に当たる配置では「暑いのに冷房を切ってしまう」結果になります。室内機の位置は、居室の畳数だけでなくベッドの向きから決めてください。
8. 北海道の介護施設でよくある失敗5選
| よくある失敗 | 回避策 |
|---|---|
| ① 補助金の交付決定前に発注してしまった | 協議・交付決定までの期間を工程表の先頭に置く。夏の稼働を目指すなら前年度中から準備を始める |
| ② 老朽エアコンの更新なのに冷房設置補助を前提にしていた | 既存施設の破損や老朽化に伴う改修・修繕は対象外。更新であればSIIの設備単位型(更新事業)側で検討する |
| ③ 室外機を落雪範囲に置いてしまった | 夏の現地調査でも冬季の落雪範囲・堆雪スペース・除雪動線を確認する。防雪フードや高置架台を計画に含める |
| ④ 契約電力が上がり、基本料金の増加が年間で経営を圧迫した | 着工前に増加するデマンド値を試算する。デマンド監視装置による30分単位の制御を運用設計に織り込む |
| ⑤ 全室同時施工で入居者の生活が崩れた | 1日あたりの施工室数を上限で決め、介護部門と工程を共同で作成する。午睡・入浴・食事の時間帯は作業を止める |
そのまま使える|冷房新設プロジェクト 着工前チェックリスト
稟議書の作成前に、以下の項目を埋められるか確認してください。1つでも空欄がある状態で見積を取ると、後から計画が崩れます。
| 確認区分 | 確認事項 |
|---|---|
| 補助制度 | 自施設の定員は30人以上か、29人以下か(申請窓口が振興局か市町村かが決まる) |
| 今回の工事は「新設」か、「老朽更新・修繕」か(後者は冷房設置補助の対象外) | |
| 所管の振興局・市町村に、現在の受付状況と補助額の考え方を確認したか | |
| 電気 | 現在の契約種別(低圧/高圧)と契約電力は何kWか |
| 直近12か月の最大需要電力(デマンド値)はいくつか | |
| 新設で増える負荷は何kWか。既存の受電容量に収まるか | |
| 建物 | 冷媒配管を通せるルート(天井裏・PS・外壁)はあるか |
| 室外機の設置場所は落雪範囲・除雪動線から外れているか | |
| 設備 | 既存暖房の方式と更新時期はいつか(兼用機にすべきかの判断材料) |
| 居室のベッド位置に対して気流が直接当たらない配置か | |
| 運営 | 1日あたり何室まで施工できるか(介護部門と合意済みか) |
| 温度設定を誰が管理するか、上下限を固定するか | |
| 資金 | 機器費と設置工事費を分けて、複数業者から見積を取得しているか |
| 補助金が不採択でも実施できる資金計画になっているか |
9. 北海道の介護事業者にとってのポイント
■ ポイント1:まず「北海道の制度」から確認する
道内の介護施設が冷房を新設する場合、国の省エネ補助金より先に、北海道が実施している介護施設等への冷房設備設置補助を確認してください。設置工事費が対象経費に含まれ、壁掛けエアコン等の設置が明示的に事業内容とされている点で、居室への新設という実態に最も近い制度です。
■ ポイント2:冷房期間が短いからこそ「基本料金」が論点になる
道内で冷房を主に使うのは夏季に限られます。しかし高圧受電の場合、その期間に記録したデマンド値が最大12か月の基本料金に影響します。電力量料金より基本料金の増加が目立ちやすい構造を、投資判断の段階で織り込んでください。
■ ポイント3:既存の暖房設備を「資産」として計算に入れる
札幌・旭川・帯広などの施設では、温水パネルやFF式ストーブが現役で稼働しています。この暖房能力を活かせるのであれば、冷房専用機という選択肢が総額を大きく下げます。「エアコン=冷暖房兼用」という本州の常識をそのまま持ち込まないでください。
■ ポイント4:室外機の冬対策を、夏の工事で作り込む
新設工事は夏に集中します。そのため、屋根からの落雪や堆雪といった冬の条件が検討から抜けやすくなります。設置後に室外機が雪で埋まる、落雪で破損する、除雪車が入れなくなるといったトラブルは道内で発生することがあります。設置場所は必ず冬の状態を想像して決めてください。
10. よくある質問(FAQ)
A. まず北海道の介護保険事業費補助金による冷房設備設置補助をご確認ください。北海道管内の介護施設等に冷房設備を設置するための制度で、壁掛けエアコン等の設置費用が対象となり、設置に伴う工事請負費も対象経費に含まれます。申請窓口は定員30人以上なら振興局、29人以下なら市町村です。
A. いいえ。200万円は交付基準単価の上限であり、施設への支給額ではありません。交付基準単価と対象経費の実支出額を比較して少ない方が基準額となり、そこに補助率を乗じて交付額が決まります。施設が実際に受け取る額は自治体の制度設計によるため、所管の振興局または市町村にご確認ください。
A. 使えません。実施要綱で「既存施設の破損や老朽化に伴う改修・修繕を目的とする事業」は対象外と明記されています。老朽更新の場合は、SIIの省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)の更新事業側で検討することになります。
A. 合致しにくいとお考えください。トップ性能枠の新設事業は補助率1/5以内であり、対象となる高効率空調はクラウド上のAI制御を備えた電気式パッケージエアコン等に限られます。一般的な居室用の壁掛けルームエアコンは想定されていません。加えて補助対象経費は設備費のみで、工事費は対象外です。
A. 冷房の使用期間が短い北海道では、電力量料金より基本料金の増加が効いてきます。30床規模で約26kWのデマンド増を想定した試算例では、基本料金だけで年間約62万円の増加となりました。実額は契約種別と料金メニューで変わるため、着工前の試算をおすすめします。
A. 可能です。1日あたりの施工室数を絞り、居室単位で順に進める工程が一般的です。ただしコア抜き時の粉塵と騒音は避けられないため、作業可能な時間帯と養生範囲を着工前に介護部門と書面で合意しておく必要があります。
11. まとめ
北海道の介護施設における冷房の新設は、「エアコンを買って付ける」工事ではありません。制度・電気設備・建物・運営・資金を同時に動かすプロジェクトです。要点を整理します。
- まず北海道の冷房設備設置補助を確認します。壁掛けエアコン等の設置が事業内容とされ、設置に伴う工事請負費も対象経費に含まれます
- 老朽更新・修繕は対象外です。「新設」か「更新」かで見るべき制度がまったく変わります
- 交付基準単価200万円は支給額ではありません。実支出額との比較と補助率を経て交付額が決まります
- SIIのトップ性能枠は新設事業なら補助率1/5以内で、対象空調はクラウドAI制御付きの電気式パッケージエアコン等に限られます。居室用の壁掛けエアコンには合致しにくい制度です
- 受電容量とデマンド値を着工前に試算します。夏に記録したデマンドは最大12か月の基本料金に影響します
- 工程は工事の都合ではなく生活の都合から逆算し、交付決定を待つ期間と積雪期の締切の両端から組み立てます
施設の空調をエネルギー種別からどう選ぶかについては福祉施設の空調選び(EHPとGHP)を、給湯設備の更新については病院・介護施設向けの給湯設備更新ガイドを、災害時の事業継続については介護事業者のためのBCP策定ガイドをあわせてご覧ください。
記事情報
公開日:2026年7月26日
参照資料:北海道「令和8年度(令和7年度からの繰り越し分)介護保険事業費補助金(介護施設等経営改善・従事者処遇改善等緊急支援事業費)に係る国庫補助協議」および同ページ掲載の国交付要綱(案)・国実施要綱(案)/石狩振興局保健環境部社会福祉課「令和8年度(令和7年度からの繰越分)介護保険事業費補助金について」/一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)「省エネ・非化石転換補助金 2026年版特設サイト 申請タイプについて」/厚生労働省「エイジフレンドリー補助金(高年齢労働者の安全衛生確保対策補助金)」および同Q&A/改正労働安全衛生規則(2025年6月1日施行)/改正労働安全衛生法(2026年4月1日施行)/北海道電力「電力需給約款(高圧)」/札幌市の気象統計資料
※本記事の補助率・基準額・対象要件は執筆時点の情報です。要綱は案の段階の資料を含み、年度・自治体・公募回により変更されます。申請前に必ず北海道の公式ページおよびSII公式サイト、所管の振興局・市町村で最新情報をご確認ください。
※本文中の消費電力・電気料金の数値は、明記のとおり試算例です。実際の値は機種・運用・契約条件により異なります。
