結論から言うと、電力会社(小売電気事業者)を新電力に切り替えても、停電しやすくなったり、復旧が後回しになったりすることはない仕組みになっています。電気を届ける電線や変電所は、契約先に関係なく、地域ごとの一般送配電事業者(北海道では北海道電力ネットワーク。以下「ほくでんネットワーク」)が維持・運用しているからです。
契約先の新電力が事業をやめた場合も、法律で一般送配電事業者は「最終保障供給」を正当な理由なく拒めないと定められています。ほくでんネットワークの最終保障供給は、北海道内の高圧・特別高圧で、どの小売電気事業者とも契約が成立しない需要が対象です。ただし料金は通常の契約と同じ条件ではないため、次の契約先は早めに決める必要があります。
一方で、契約先を替えても、停電に強くなるわけではありません。2018年の北海道胆振東部地震では、契約先に関係なく北海道全域が停電しました。停電への備えは、契約先の選び方ではなく、自社の設備と非常用電源で考えるものです。この記事では、電気が届く仕組み、停電時の復旧、契約先が撤退したときの制度、2018年の教訓、自社でできる備えを、法令と公的機関の資料で整理します。
この記事でわかること
・発電・送配電・小売の役割と、契約先を替えても変わらないもの
・小売電気事業者を通じて電気が届く「接続供給」の仕組み
・停電時の復旧を担う事業者と、差別的な取扱いを禁じる法律の条文
・契約先が撤退・倒産したときの事前周知のルールと最終保障供給
・2018年のブラックアウトの事実と、契約先に関係なく必要な備え
更新履歴
- 2026年10月30日:全面改訂。電気事業法・施行規則の条文、北海道電力ネットワークの資料、広域的運営推進機関の資料で内容を確認し直し、最終保障供給と2018年のブラックアウトの記述を追加。根拠を確認できなかった記述(料金メリットなど)を削除
- 2025年6月14日:初版公開
1. 停電に関わるのは「送配電」、契約先を決めるのは「小売」
電気が発電所から事業所に届くまでには、発電、送配電、小売の3つの部門が関わります。2016年4月に電力小売が全面自由化され、低圧(家庭や商店など)も含めて契約先の小売電気事業者を選べるようになりました。切り替えで変わるのは、このうち小売の契約先だけです。
| 部門 | 主な役割 | 北海道での担い手 | 小売の切り替えで |
|---|---|---|---|
| 発電 | 電気をつくる | 発電事業者 | 小売電気事業者の調達先は変わりうる |
| 送配電 | 送電線・配電線・変電所で電気を届ける。電柱や電線の建設・保守、需給のバランス調整、事故時の復旧 | ほくでんネットワーク(一般送配電事業者) | 変わらない |
| 小売 | 需要家と契約し、料金を請求する。電気を調達して送配電網に託す | 契約先の小売電気事業者 | 変わる |
表:電気が届くまでの3つの部門と、小売電気事業者の切り替えで変わるもの(電気事業法、資源エネルギー庁、北海道電力ネットワークの資料をもとに作成)
一般送配電事業は、電気事業法で「自らが維持し、及び運用する送電用及び配電用の電気工作物によりその供給区域において託送供給及び電力量調整供給を行う事業」と定義されています(第2条第1項第8号)。資源エネルギー庁も、送配電部門の役割を、送配電網全体の需給管理と、電柱や電線などの建設・保守としています。
ほくでんネットワークは、2020年4月に発足した、北海道電力の送配電部門を担う会社です。送配電部門を別会社にする「法的分離」は、さまざまな事業者が送配電網を公平に使えるようにするための中立性確保の方法とされています。
2. 契約先を替えても、電気が通る道は同じ(接続供給の仕組み)
小売電気事業者は、発電所や市場から調達した電気を、ほくでんネットワークの送配電網に託して需要家に届けます。ほくでんネットワークは、この仕組みを「接続供給」と説明しています。小売電気事業者などの契約者が調達した電気を受け取り、自社の送配電ネットワークを通じて、同時に需要家へ送り届けるとともに、需要の変動に応じた電気の量を契約者に供給する、というものです。
需要家は、ほくでんネットワークの託送供給等約款では「需要者」にあたり、同社との契約や手続きはすべて小売電気事業者を通じて行います。つまり、事業所に引き込まれる電線も、停電の復旧を担う事業者も、契約先の小売電気事業者によって変わりません。
小売の計画が外れても、ずれは送配電事業者との間で精算される
小売電気事業者は、30分ごとの需要の見込み(計画値)を、広域的運営推進機関を通じてほくでんネットワークに事前に通知します。実際の需要が計画を上回った30分については、その差が「補給電力」として扱われ、約款に基づいて精算されます(託送供給等約款 令和8年11月1日実施版の「接続対象計画差対応補給電力量」の定義)。小売電気事業者の見込みが外れても、そのずれは小売電気事業者と送配電事業者の間で精算される設計になっています。
電気事業法も、小売電気事業者は正当な理由がある場合を除き、供給の相手方の需要に応じるために必要な供給能力を確保しなければならないと定めています(第2条の12)。供給能力の確保を怠れば、経済産業大臣が必要な措置を命じることができます。
契約先の小売電気事業者の調達状況が、直接、需要家の停電の原因になる設計ではないというのが、ここまでの話です。ただし、地域全体で供給力が足りなくなる事態や、送電設備の事故は、契約先に関係なく起こりえます。これは5・6の見出しで扱います。
3. 停電したときの復旧は誰がするか:契約先で差はつかない
停電の復旧は、小売電気事業者ではなく、一般送配電事業者であるほくでんネットワークの仕事です。法律もそのように定めています。
| 条文 | 内容(要旨) |
|---|---|
| 電気事業法 第26条の2 | 一般送配電事業者は、事故により電気の供給に支障が生ずる場合に備えて、その支障を速やかに除去するために必要な対策を講じておかなければならない。支障が生じている場合は、修理その他の措置を速やかに行わなければならない |
| 電気事業法 第23条第1項第2号 | 一般送配電事業者は、託送供給などの業務について、特定の電気供給事業者に対し、不当に優先的な取扱いをし、または不当に不利な取扱いをしてはならない |
| 電気事業法 第23条第6項 | 経済産業大臣は、これらに違反する行為があると認めるときは、当該行為の停止または変更を命ずることができる |
表:事故時の対応と取扱いの公平に関する電気事業法の条文(e-Gov法令検索、2026年10月30日確認)
この条文により、一般送配電事業者が、特定の小売電気事業者の契約者だけを不利に扱うことは禁じられています。実際の復旧の順番は、被害の規模や場所、設備の状況によって決まります。契約先が新電力かどうかが理由になることはありません。
ほくでんネットワークは、電気がつかないなどの緊急時には、まず同社の停電情報で状況を確認したうえで問い合わせるよう案内しています(「よくあるご質問・お問い合わせ」ページ)。復旧作業を行うのは小売電気事業者ではなく、ほくでんネットワークです。
停電時の最初の10分の動き方は、停電対応マニュアル|北海道の法人が最初の10分でやること・連絡先【ほくでんNW】 で整理しています。
4. 契約先が撤退・倒産したら:事前周知と最終保障供給
「契約先の新電力がなくなったら、電気が止まるのでは」という不安にも、法律と制度が用意されています。流れは次のとおりです。
小売電気事業者が事業をやめるときは、事前に周知する義務がある
小売電気事業者は、事業を休止・廃止しようとするときは、あらかじめ小売供給の相手方に周知しなければなりません(電気事業法第2条の8第3項)。周知の時期は、電気事業法施行規則第3条の11で、休廃止日の前日から数えて60日前までと定められています。契約電力50kW以上の小売供給契約を結んでいる場合、または供給の相手方が1万以上の場合は、90日前までです。
どの小売電気事業者とも契約できないときは、最終保障供給
「最終保障供給」は、小売電気事業者などから供給を受けていない一般の需要に応じる電気の供給を保障するための仕組みです(電気事業法第2条第1項第8号イ)。一般送配電事業者は、正当な理由がなければ最終保障供給を拒んではならないとされています(第17条第3項)。資源エネルギー庁の資料も、すべての需要家が電気の供給を受けられることを制度的に担保するセーフティネットと位置づけています。
| 項目 | ほくでんネットワークの最終保障供給 |
|---|---|
| 対象 | 北海道内(離島等供給の対象地域を除く)で高圧または特別高圧で電気の供給を受ける一般の需要で、いずれの小売電気事業者とも電気需給契約が成立しないお客さま |
| 供給条件 | 電気最終保障供給約款に定められる(電気事業法第20条により、約款を定めて経済産業大臣に届け出る) |
| 料金の考え方 | 小売電気事業者の標準的な料金を踏まえて設定する。2026年11月1日から見直す予定(2026年10月14日公表)。市場価格に応じて電力量料金を調整する「市場価格調整」の仕組みもある |
表:北海道電力ネットワークの最終保障供給の概要(同社「最終保障供給のご案内」、2026年10月14日の同社発表をもとに作成)
最終保障供給は、電気が止まることを防ぐ安全網です。料金や条件は小売電気事業者の通常の契約と同じではないため、通知を受けたら、次の契約先を探して切り替える流れになります。料金の水準、契約件数の推移、切り替えの手順は、新電力は本当にやばい?倒産・撤退の実態と法人が契約前に確認すべき5つの点 で詳しく整理しています。低圧の場合の扱いも、この記事ではなく、そちらをご覧ください。
5. 地域全体の需給が崩れたら:広域機関と連系線
停電の原因には、契約先と関係なく起こるものがあります。そのひとつが、地域全体で電気の需要と供給のバランスが崩れる事態です。このとき動くのが、電力広域的運営推進機関(広域機関)です。
広域機関は、電気事業法に基づき、電気の需給状況の監視、供給能力の確保の促進、需給が悪化した事業者への電気の供給の指示などを行います(第28条の4、第28条の40)。電気事業者は、広域機関に会員として加入しなければなりません(第28条の11)。需給が悪化し、または悪化するおそれがある場合には、広域機関は会員に対し、電気を供給することや、他の会員に振替供給を行うことなどを指示できます(第28条の44)。
北海道は連系設備で本州側とつながっている
北海道は、北海道本州間連系設備で本州側と結ばれています。広域機関の資料(2026年6月9日の運用容量検討会)では、設備容量は90万kW(北海道本州間連系設備60万kWと、新北海道本州間連系設備30万kW)、2027年度に30万kWの増強が予定されています。
ただし、連系設備で送れる量には上限があります。資料の運用容量は、月や時間帯などの条件によって変わります。連系線があれば、どんな事態でも電気が足りる、ということではありません。次の2018年の事例が、その限界を示しています。
6. 2018年の北海道胆振東部地震が示したこと
2018年9月6日、午前3時7分に北海道胆振東部地震が発生し、午前3時25分に北海道全域の大規模停電(ブラックアウト)に至りました。広域機関の検証委員会は、主な原因を、苫東厚真発電所1・2・4号機の停止と、地震による送電線4回線の事故に伴う水力発電の停止が重なったことと整理しています。北本連系設備のマージンを使った緊急融通で周波数をいったん回復させましたが、受電量が最大に達したため、苫東厚真発電所1号機が停止した時点では周波数調整機能が働かず、ブラックアウトに至りました。
ブラックアウトから概ね全域に供給できるまでに要した時間は、同委員会の資料で45時間程度とされています。
この停電は、地域全体の電力システムで起きた出来事です。小売電気事業者の契約先に関係なく、北海道全域が影響を受けました。なお、当時はほくでんネットワークの発足(2020年4月)の前で、送配電部門は北海道電力の一部でした。
この事例から言えるのは、「新電力だから不利」でも「大手だから安心」でもなく、停電のリスクは契約先ではなく、電力システム全体と自社設備に左右されるということです。
7. 契約先を替えても変わらない備え:自社設備と非常用電源
契約先を替えても、停電そのものを防ぐことはできません。停電への備えは、自社でできる範囲で考える必要があります。
構内の設備は、設置者の責任範囲
高圧で受電する事業所の受電設備(キュービクルなど)は、電気事業法の「一般用電気工作物」の定義(低圧受電のもの)にあたらず、事業用電気工作物として扱われます。設置者には、技術基準に適合するよう維持する義務(第39条)、保安規程の届出(第42条)、主任技術者の選任(第43条)が定められています。構内の設備の不具合が原因の停電は、契約先を替えても防げません。保守契約の見方は、キュービクル保守契約とは|点検の内容・費用の決まり方・業者の選び方【北海道】 が参考になります。
長い停電に備えるなら、非常用電源と燃料
2018年のように復旧まで長時間かかる場合、頼りになるのは自社の非常用電源です。非常用発電機の燃料の選び方は、BCP対策と非常用発電機の燃料選択方法について解説 で整理しています。電力の需給の余裕(予備率)の見方は、電気の予備率とは?計算式・目安と北海道の2026年度冬季の需給見通し で解説しています。
契約先を替えるときに確認したいこと
- 切り替え作業の内容(現地での作業の有無)と、その日程
- 契約の解約条件と、契約先が事業をやめる場合の通知方法
- 停電時の問い合わせ先が、ほくでんネットワークであること(小売電気事業者の窓口ではない)
料金面の比べ方は、新電力の料金プラン比較5つのポイント|法人の高圧・低圧の見積りの比べ方【北海道】 で扱っています。
8. よくある質問(FAQ)
A. 契約先の違いが停電の頻度を決める仕組みにはなっていません。電気は、契約先に関係なく、ほくでんネットワークの送配電網を通って届きます。停電の原因は、設備の事故、地域全体の需給の崩れ、自社構内の設備の不具合などで、いずれも契約先とは別の話です。
A. 復旧を担うのは一般送配電事業者で、電気事業法第23条は特定の事業者を不当に不利に扱うことを禁じています。復旧の順番は、被害の規模や場所、設備の状況によって決まります。
A. 事業の休廃止は、原則として60日前(契約電力50kW以上などは90日前)までの周知が義務づけられています。どの小売電気事業者とも契約できない高圧・特別高圧の需要には、ほくでんネットワークの最終保障供給があり、一般送配電事業者は正当な理由なく拒めません。通知を受けたら、早めに次の契約先を決めてください。詳しくは 新電力は本当にやばい?倒産・撤退の実態と法人が契約前に確認すべき5つの点 をご覧ください。
A. ほくでんネットワークの停電情報で状況を確認し、同社に問い合わせます。契約先の小売電気事業者では、復旧作業はできません。手順は 停電対応マニュアル|北海道の法人が最初の10分でやること・連絡先【ほくでんNW】 にまとめています。
A. 供給者が小売電気事業者からほくでんネットワークになり、電気最終保障供給約款の条件で供給されます。料金は小売電気事業者の標準的な料金を踏まえて設定され、市場価格調整の仕組みもあります。2026年11月1日から料金が見直される予定です。単価は同社の発表資料で確認してください。
A. なりません。2018年のように、地域全体が停電する事態では、契約先に関係なく影響を受けます。停電への備えは、自社の設備の保守と、非常用電源で考えてください。
9. まとめ
- 停電や復旧を担うのは一般送配電事業者(北海道ではほくでんネットワーク)で、小売電気事業者の切り替えでは変わらない
- 電気事業法は、事故時の迅速な措置(第26条の2)と、特定の事業者を不当に扱わないこと(第23条)を一般送配電事業者に求めている
- 小売電気事業者は休廃止の60日前(契約電力50kW以上などは90日前)までに周知する義務があり、契約先が決まらない高圧・特別高圧には最終保障供給がある
- 2018年のブラックアウトは契約先に関係なく北海道全域に及んだ。停電への備えは契約先ではなく、自社設備と非常用電源で考える
- 契約を替えるときは、切り替え作業、解約条件、停電時の問い合わせ先(ほくでんネットワーク)を確認する
記事情報
公開日:2025年6月14日
最終更新日:2026年10月30日(全面改訂)
参照資料:
・e-Gov法令検索「電気事業法」(e-Gov法令検索)、「電気事業法施行規則」(e-Gov法令検索)
・北海道電力ネットワーク「託送供給等について」(北海道電力ネットワーク)、「託送供給等約款(令和8年11月1日実施)」(PDF)
・北海道電力ネットワーク「最終保障供給のご案内」(北海道電力ネットワーク)、「離島供給および最終保障供給の電気料金の見直しについて」2026年10月14日(北海道電力ネットワーク)
・北海道電力ネットワーク「会社情報」(北海道電力ネットワーク)、「よくあるご質問・お問い合わせ」(北海道電力ネットワーク)
・資源エネルギー庁 エネこれ「2020年、送配電部門の分社化で電気がさらに変わる」(資源エネルギー庁)、「料金の仕組みと料金メニュー例のご紹介」(資源エネルギー庁)
・資源エネルギー庁「最終保障供給について」第60回電力・ガス基本政策小委員会 資料4、2023年3月29日(PDF)
・電力広域的運営推進機関「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会 最終報告(概要)(案)」2018年12月12日(PDF)
・電力広域的運営推進機関「第2回運用容量検討会 資料2 各連系線の運用容量 算出方法・結果」2026年6月9日(PDF)
※2026年10月30日時点の情報です。2026年11月1日実施の最終保障供給料金の見直しなど、未実施のものは予定です。条文・約款・料金は改定されることがあるため、最新の内容は各機関の公表資料でご確認ください。
